第七十一回日本推理作家協会賞贈呈式・パーティ開催
本年度の日本推理作家協会賞贈呈式は、五月二十八日(月)午後六時より、新橋の第一ホテル東京「ラ・ローズ」にて開催された。
道尾秀介事業担当常任理事の司会で挨拶に立った今野敏代表理事は「今年も協会賞を出すことができてホッとしている。しかもユニークな作品が選ばれた。長編賞は第二次大戦中のビルマが舞台という点がユニークだった。短編賞受賞者はコンビ作家で、プロット担当と執筆担当というお二人が並んでいる。ミステリー界の藤子不二雄みたいだ。そして評論・研究部門の受賞者は九十歳という年齢にびっくりした。この週末に大阪と京都の書店周りをしてきた。昨今、特に紙の本をめぐる状況はよろしくないという話が、どこにいっても出る。しかし決してそんなことはない。ある書店はとても元気で明るくて、頭と身体を使ってやっている。これからは書店もわれわれ作家もサバイバルゲームだ。今日の受賞者もそうだと思う。頭を使って身体を使って元気でやっている人、そういう人が生き残ると思う。当協会もそうありたい。ご受賞おめでとうございます」と語り、長編および連作短編集部門の古処誠二氏、短編部門の降田天氏、評論・研究部門の宮田昇氏に正賞の名前入り腕時計(大沢商会協力)と副賞の五十万円を贈呈した。
続いて選考委員を代表して麻耶雄嵩氏が長編および連作短編集部門の、逢坂剛氏が短編部門と評論・研究部門の選考経過を報告した。
麻耶氏は「今回は候補作五作のうち四作はすでに何らかの賞を取っており激戦の中での選考だった。どの作品も面白かったし選ぶのは難しかった。協会賞ということでミステリーの部分でふさわしいものを選ぼうという気持ちがあった。受賞作はミステリーとしてのトリックの面白さが、内容の面白さに直結していた。舞台がトリックのためにあり、トリックも舞台のためにあったことが、選考委員の中でも評価が高かった。第二次大戦というと日本とアメリカとの戦いということを思いがちだが、舞台がビルマということもあって、アジアとの戦いでもあったことを思い起こさせてくれた」と語った。
逢坂氏は「どれも面白く読んだが、短編部門の受賞作は長編に直しても書けそうなネタを惜しげも無く盛り込んで、読者の予想を次々と外していくという、短編では珍しいどんでん返しの連続で感心した。多少の欠陥もあるが受賞にふさわしい佳作であった。評論・研究部門は選評にも書いたが、ミステリーの評論は難しい。トリックを明かさないと評論できない場合もあるため、対象作品を読んでいない人は困るし、読んでいる人にはわかっていることなので批評の仕方は難しい。いずれの作品も対象に対する愛情はよく感じられたが、一般の読者にどこまで訴えられるのが疑問が残った。宮田さんの本は、わたしも翻訳ミステリーで育った口であるし、若い人にとってもこういうふうにして翻訳小説は普及していったことがわかるなど、資料的な価値が高い評論だった。ミステリーだけが対象ではないが、ミステリーが戦後の翻訳の中で重要な位置を占めていたことがよくわかる受賞にふさわしい作品だった」と語った。
この後、受賞者から挨拶があった。古処誠二氏は「挨拶のための原稿を用意したが、それはやめにしました。ただただ嬉しい。ひたすら嬉しい。ファンの方が喜んでくれ、それがまた嬉しい。それだけです。これからはさらに精進しなければいけない。さらに精進するからはもっと面白い作品を書くつもりだ。それはとりもなおさず、この選考に関わってくれた皆さまへの恩返しでもある。今後の作品にご期待ください」
降田天氏は「名誉ある賞を賜り本当にありがとうございました。選考に携わったすべての方に御礼を申し上げます。降田天という名前を使い始めてからまだ日が浅いが、物書きになってからは十年目になる。区切りの年にこのような賞をいただけたことを嬉しく思う。もう一つ嬉しいことがある。われわれ二人がミステリーの面白さに目覚めたのは、小学校の時にシャーロック・ホームズを読んだことがきっかけだった。そして初めて読んだ子ども向きではないホームズが、お隣にいる宮田昇さんが翻訳に携わったホームズ全集だった。その宮田先生と同じ年に協会賞をいただけたことに不思議なご縁を感じる。われわれがこの場に立っているのはホームズだけではなく、作家や編集者の皆さま、本という仕事に携わっているすべての皆さまのおかげです。皆さまの作品に魅了されたおかげでこの場にいます。お導きいただきありがとうございます。これからも頑張って二人で小説を書いていきます」
宮田昇氏は「このたびは思いもかけず協会賞をいただきありがとうございます。平成も来年で終わるが、平成だけでも三十年。わたしの場合はそれ以前、六十数年前のことを書いている。昔々の昭和の翻訳出版のことを書いたことを評価してくださった選考委員に感謝します。振りかえってみれば、昭和の翻訳出版には多くの事件があった。特にミステリーではホームズ、ペリー・メイスン、アガサ・クリスティーなどの翻訳で、出版社や翻訳者はどれだけ振り回されたかわかりません。それらの人たちの労苦や事件などを、推理小説史に残すべきだと評価されたのだと思います。またわたしの年齢が九十歳であることも。創元社の編集者はじめ、わたしを支えてきてくれたすべての人に感謝します」と、それぞれ喜びを語った。
最後に北村薫氏の発声で、壇上に上がった受賞者、選考委員とともに乾杯し、三百人近い出席者は午後八時の散会まで、受賞者を囲み楽しいひとときを過ごした。
道尾秀介事業担当常任理事の司会で挨拶に立った今野敏代表理事は「今年も協会賞を出すことができてホッとしている。しかもユニークな作品が選ばれた。長編賞は第二次大戦中のビルマが舞台という点がユニークだった。短編賞受賞者はコンビ作家で、プロット担当と執筆担当というお二人が並んでいる。ミステリー界の藤子不二雄みたいだ。そして評論・研究部門の受賞者は九十歳という年齢にびっくりした。この週末に大阪と京都の書店周りをしてきた。昨今、特に紙の本をめぐる状況はよろしくないという話が、どこにいっても出る。しかし決してそんなことはない。ある書店はとても元気で明るくて、頭と身体を使ってやっている。これからは書店もわれわれ作家もサバイバルゲームだ。今日の受賞者もそうだと思う。頭を使って身体を使って元気でやっている人、そういう人が生き残ると思う。当協会もそうありたい。ご受賞おめでとうございます」と語り、長編および連作短編集部門の古処誠二氏、短編部門の降田天氏、評論・研究部門の宮田昇氏に正賞の名前入り腕時計(大沢商会協力)と副賞の五十万円を贈呈した。
続いて選考委員を代表して麻耶雄嵩氏が長編および連作短編集部門の、逢坂剛氏が短編部門と評論・研究部門の選考経過を報告した。
麻耶氏は「今回は候補作五作のうち四作はすでに何らかの賞を取っており激戦の中での選考だった。どの作品も面白かったし選ぶのは難しかった。協会賞ということでミステリーの部分でふさわしいものを選ぼうという気持ちがあった。受賞作はミステリーとしてのトリックの面白さが、内容の面白さに直結していた。舞台がトリックのためにあり、トリックも舞台のためにあったことが、選考委員の中でも評価が高かった。第二次大戦というと日本とアメリカとの戦いということを思いがちだが、舞台がビルマということもあって、アジアとの戦いでもあったことを思い起こさせてくれた」と語った。
逢坂氏は「どれも面白く読んだが、短編部門の受賞作は長編に直しても書けそうなネタを惜しげも無く盛り込んで、読者の予想を次々と外していくという、短編では珍しいどんでん返しの連続で感心した。多少の欠陥もあるが受賞にふさわしい佳作であった。評論・研究部門は選評にも書いたが、ミステリーの評論は難しい。トリックを明かさないと評論できない場合もあるため、対象作品を読んでいない人は困るし、読んでいる人にはわかっていることなので批評の仕方は難しい。いずれの作品も対象に対する愛情はよく感じられたが、一般の読者にどこまで訴えられるのが疑問が残った。宮田さんの本は、わたしも翻訳ミステリーで育った口であるし、若い人にとってもこういうふうにして翻訳小説は普及していったことがわかるなど、資料的な価値が高い評論だった。ミステリーだけが対象ではないが、ミステリーが戦後の翻訳の中で重要な位置を占めていたことがよくわかる受賞にふさわしい作品だった」と語った。
この後、受賞者から挨拶があった。古処誠二氏は「挨拶のための原稿を用意したが、それはやめにしました。ただただ嬉しい。ひたすら嬉しい。ファンの方が喜んでくれ、それがまた嬉しい。それだけです。これからはさらに精進しなければいけない。さらに精進するからはもっと面白い作品を書くつもりだ。それはとりもなおさず、この選考に関わってくれた皆さまへの恩返しでもある。今後の作品にご期待ください」
降田天氏は「名誉ある賞を賜り本当にありがとうございました。選考に携わったすべての方に御礼を申し上げます。降田天という名前を使い始めてからまだ日が浅いが、物書きになってからは十年目になる。区切りの年にこのような賞をいただけたことを嬉しく思う。もう一つ嬉しいことがある。われわれ二人がミステリーの面白さに目覚めたのは、小学校の時にシャーロック・ホームズを読んだことがきっかけだった。そして初めて読んだ子ども向きではないホームズが、お隣にいる宮田昇さんが翻訳に携わったホームズ全集だった。その宮田先生と同じ年に協会賞をいただけたことに不思議なご縁を感じる。われわれがこの場に立っているのはホームズだけではなく、作家や編集者の皆さま、本という仕事に携わっているすべての皆さまのおかげです。皆さまの作品に魅了されたおかげでこの場にいます。お導きいただきありがとうございます。これからも頑張って二人で小説を書いていきます」
宮田昇氏は「このたびは思いもかけず協会賞をいただきありがとうございます。平成も来年で終わるが、平成だけでも三十年。わたしの場合はそれ以前、六十数年前のことを書いている。昔々の昭和の翻訳出版のことを書いたことを評価してくださった選考委員に感謝します。振りかえってみれば、昭和の翻訳出版には多くの事件があった。特にミステリーではホームズ、ペリー・メイスン、アガサ・クリスティーなどの翻訳で、出版社や翻訳者はどれだけ振り回されたかわかりません。それらの人たちの労苦や事件などを、推理小説史に残すべきだと評価されたのだと思います。またわたしの年齢が九十歳であることも。創元社の編集者はじめ、わたしを支えてきてくれたすべての人に感謝します」と、それぞれ喜びを語った。
最後に北村薫氏の発声で、壇上に上がった受賞者、選考委員とともに乾杯し、三百人近い出席者は午後八時の散会まで、受賞者を囲み楽しいひとときを過ごした。