推理小説・二〇一九

末國善己

 二〇一九年四月三〇日の天皇退位、五月一日の新天皇即位にともない元号が「平成」から「令和」に変わった。
 時代の〝節目〟だったこともあり、「平成」元年に生まれた男を軸に、児童虐待、子どもの貧困、就職難など「平成」の闇に迫った葉真中顕の犯罪小説『Blue』(光文社)、「平成」デビューの九人の作家が、「平成」に起きた事件に挑んだアンソロジー『平成ストライク』(南雲堂)、先のオリンピックの前年に実際に起きた児童誘拐事件をモデルにした奥田英朗『罪の轍』(新潮社)、東京の下町で発生した殺人事件が、昭和天皇の大喪の礼の日に身代金が奪われた誘拐事件と結び付く貫井徳郎『罪と祈り』(実業之日本社)、映画好きのやくざが中堅監督を先の五輪の公式記録映画の監督に押し込もうとする月村了衛『悪の五輪』(講談社)、豊田商事事件をモデルにした詐欺事件の残党が様々な詐欺にかかわっていく月村了衛『欺す衆生』(新潮社)など、高度経済成長からバブル後の「平成」を経て現代に至る時代とは何だったのかを問う作品が目についた。
 同じく時代の〝節目〟に着目しているが、満洲を舞台にした新美健『満洲コンフィデンシャル』(徳間書店)、ビハール号事件を基にした伊東潤の法廷サスペンス『真実の航跡』(集英社)、古書店主の不審死を追う同業者が、GHQがらみの陰謀に巻き込まれる門井慶喜『定価のない本』(東京創元社)、終戦直後の東京で小林少年が宿敵と戦う辻真先『焼跡の二十面相』(光文社)、フィリピンで戦死した詩人のノートを求め現地に飛んだ男を主人公にした宮内悠介『遠い他国でひょんと死ぬるや』(祥伝社)などは、さらに大きく近代日本の問題点に切り込んだといえる。
 二〇二〇年の東京オリンピックが目前に迫っていたこともあり(二〇二一年への延期が発表された)、先の五輪前夜の狂騒を浮き彫りにする森谷明子『涼子点景1964』(双葉社)、次の東京五輪を舞台にした真山仁の国際謀略小説『トリガー』(KADOKAWA)、次の東京五輪後に起こる社会問題を切り取った藤井太洋『東京の子』(KADOKAWA)など、オリンピックものが次々と刊行された。
 二〇一九年は、久々に刊行されたシリーズも多かった。
 〈吉敷〉シリーズの二十年ぶりの新作となる島田荘司『盲剣楼奇譚』(文藝春秋)は、現代の誘拐事件と終戦直後の密室殺人事件、そして江戸初期の剣豪小説がリンクしていく著者らしい大きなスケールに圧倒されるだろう。
 〈十二国記〉の十八年ぶりの新作となる小野不由美『白銀の墟 玄の月』(新潮文庫)は、反乱鎮圧のため鉱山に向かった戴の王が消えた謎、シリーズの随所にちりばめられていた戴をめぐる謎が解決するのでミステリ色が強い。
 今野敏『呪護』(KADOKAWA)は、オカルトがらみの事件を描く〈鬼龍光一〉ものの十六年ぶりの新作だ。
 香納諒一〈さすらいのキャンパー探偵〉シリーズは、フリーカメラマン兼探偵の辰巳翔一を九年ぶりに復活させたもので、『降らなきゃ晴れ』『水平線がきらっきらっ』『見知らぬ町で』(共に双葉文庫)が連続刊行された。
 〈新宿鮫〉シリーズの八年ぶりの新作となる大沢在昌『暗約領域』(光文社)は、恋人の晶と別れ、よき理解者だった桃井を失った新宿署の鮫島が、新たに赴任してきた叩き上げの女性警視の下で難事件に挑んでいた。
 髙村薫『我らが少女A』(毎日新聞出版)は、〈合田〉シリーズの七年ぶりの新作。池袋で女性が同棲相手に殺された事件が、十二年前、中学の元美術教師が殺された未解決事件の真相を浮かび上がらせる構造になっていた。
 シリーズではないが、『ノースライト』(新潮社)は横山秀夫の六年ぶりの長編。警察小説ではなく、バブル崩壊で仕事をなくし設計事務所を経営する友人に救われた一級建築士が、再起をかけて設計した住宅の施主が失踪した謎をブルーノ・タウトの椅子を手掛かりに追う異色作である。
 本格ミステリでは、有栖川有栖の作品集『こうして誰もいなくなった』(KADOKAWA)と『カナダ金貨の謎」(講談社ノベルス)、法月綸太郎の短編集『法月綸太郎の消息』(講談社)と『赤い部屋異聞』(KADOKAWA)、柄刀一『或るエジプト十字架の謎』(光文社)、白井智之『そして誰も死ななかった』(KADOKAWA)、阿津川辰海『紅蓮館の殺人』(講談社タイガ)、平石貴樹『潮首岬に郭公の鳴く』(光文社)など、ドイル、ルルー、クリスティー、クイーン、横溝正史などの名作を本歌取りした傑作が並んだので、伝統を継承発展させながらジャンルを進化させてきた本格の特性を感じることができた。
 その他の本格ミステリでは、周到な伏線から驚愕のどんでん返しを作り、ミステリ・ベスト10で三冠を達成した相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(講談社)、デビュー作『屍人荘の殺人』がミステリ・ベスト10で四冠を達成した今村昌弘の二作目『魔眼の匣の殺人』(東京創元社)、青春ミステリの浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』(KADOKAWA)、誰もが知る昔話をミステリに仕立て直した青柳碧人『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(双葉社)、日常の謎で青春小説色も強い青崎有吾『早朝始発の殺風景』(集英社)、孤島で殺人計画を進める少年が連続殺人鬼と対決する早坂吝『殺人犯 対 殺人鬼』(光文社)、倒叙ミステリの降田天『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』(KADOKAWA)、ホラーとミステリを融合した三津田信三『魔偶の如き齎すもの』(講談社)と歌野晶午『間宵の母』(双葉社)、リドルストーリー風の結末ながら、読者に謎解きをうながす仕掛けを置いた道尾秀介の短編集『いけない』(文藝春秋)、剣と魔法の異世界を舞台にした片里鴎『異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件』(レジェンドノベルズ)が印象に残っている。
 著者が提示した七つの選択肢の中から、読者が好みの犯人を選ぶネット投票を行った深水黎一郎『犯人選挙』(講談社)は、ミステリへの読書参加の新たな挑戦といえる。
 過疎に苦しむ地方都市の実像に迫った米澤穂信『Iの悲劇』(文藝春秋)、AI、遺伝子操作、VRなど近々に実現する科学技術を謎にからめた井上真偽『ベーシックインカム』(集英社)、無差別殺傷事件の生存者が、当日、なにが起きたのかを語り合う呉勝浩『スワン』は、本格と社会派推理小説の要素が見事に融合していた。児童虐待を描いた小林由香『救いの森』(角川春樹事務所)、貧困問題に迫った原田ひ香『DRY』(光文社)も、社会的なテーマ設定が秀逸である。
 警察小説では、連続殺人事件を捜査する女性刑事が、戦争で勝利するも経済が悪化しているもう一つの日本のエリート警視になる大沢在昌『帰去来』(朝日新聞出版)、日露戦争に敗れてロシアに統治され、親露派と反露派がせめぎ合うもう一つの日本を舞台にした佐々木譲『抵抗都市』(集英社)と、ベテランが異世界転生、歴史改変SFの手法を導入したことに驚かされたが、いずれも異世界を現代日本と重ね、リアルな社会問題を描く意図が感じられた。
 公安を取り上げた先駆的な警察小説で、謎の殺し屋との戦いを描いた逢坂剛の〈百舌〉シリーズが、『百舌落とし』(集英社)で完結。その一方、黒川博行は大阪府警泉尾署に勤務する色男の新垣と映画マニアの上坂をコンビにした新シリーズ『桃源』(集英社)をスタートさせた。
 公安の異端コンビが永田町周辺で起こる連続不審死を追う馳星周『殺しの許可証(ライセンス)』(毎日新聞出版)は、『アンタッチャブル』の続編。下村敦史『刑事の慟哭』(双葉社)は、間違った推理ばかり披露するため「オミヤ」と揶揄されている男の実像を掘り下げていた。若竹七海『殺人鬼がもう一人』(光文社)は、悪徳女性警察官が、現代日本の闇を象徴するような真相を暴いていた。捜査資料が流出した事件を監察係が追う伊兼源太郎『ブラックリスト 警視庁監察ファイル』(実業之日本社)は、警察内部の確執にリアリティがある。
 ハードボイルド、クライムノベル系では、家族を殺され祖母の祖国日本に来たシチリアマフィアのガルシアが、復讐のため裏社会で生きる新堂冬樹〈悪の華〉シリーズが『神を喰らう者たち』(光文社)で完結、復員兵が敗戦後の日本でナチスの隠し財産をめぐる諜報戦に巻き込まれる藤田宜永『ブルーブラッド』(徳間書店)、法の目から逃れた殺人者たちの暗闘が、法とは正義とは何かを問い掛ける長浦京『マーダーズ』(講談社)が成果といえる。
 ミステリ作家が歴史時代小説に進出することも、歴史時代小説作家がミステリを書くことも珍しくなくなったが、ミステリ出版の老舗・早川書房が、新レーベル「ハヤカワ時代ミステリ文庫」を立ち上げたのは、やはり特筆すべきだろう。その第一弾として捕物帳の稲葉一広『戯作屋伴内捕物ばなし』、ハードボイルドの誉田龍一『よろず屋お市 深川事件帖』、冒険小説の稲葉博一『影がゆく』が出た。
 文学賞では、第一六〇回直木賞を真藤順丈『宝島』(講談社)が、第一六一回直木賞を大島真寿美『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(文藝春秋)が受賞した。
 第二十一回大藪春彦賞は、河﨑秋子『肉弾』(KADOKAWA)と葉真中顕『凍てつく太陽』(幻冬舎)が受賞。『凍てつく太陽』は第七十二日本推理作家協会賞の長編および連作短編集部門も受賞。同賞の短編部門は澤村伊智「学校は死の匂い」(「小説 野生時代」二〇一八年八月号)が、評論・研究部門は長山靖生『日本SF精神史【完全版】』(河出書房新社)が受賞した。第二十二回日本ミステリー文学大賞が綾辻行人に、同賞の特別賞が権田萬治に贈られた。第五十三回吉川英治文学賞は篠田節子『鏡の背面』(集英社)、第四十回吉川英治文学新人賞は塩田武士『歪んだ波紋』(講談社)と藤井太洋『ハロー・ワールド』(講談社)、第四回吉川英治文庫賞は西村京太郎〈十津川警部〉シリーズ(各社)が受賞した。第三十二回柴田錬三郎賞は、姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋)が受賞した。第十回山田風太郎賞は、月村了衛『欺す衆生』が受賞した。第十九回本格ミステリ大賞小説部門は、伊吹亜門『刀と傘 明治京洛推理帖』(東京創元社)に決定。第十八回の今村昌弘『屍人荘の殺人』に続き初単行本での受賞となった。評論・研究部門は、中相作の評伝『乱歩謎解きクロニクル』(言視舎)が受賞した。
 新人賞では、第二十二回日本ミステリー文学大賞新人賞を自衛隊のPKO派遣をめぐる社会派推理小説の辻寛之『インソムニア』(光文社)、第十一回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を、かつての恋人の死を知った男が、消息不明になっている元彼女たちについて調べ始める酒本歩『幻の彼女』(光文社)が受賞した。第二十六回松本清張賞は作中に清張と同じく「西郷札」の逸話を取り込んだ坂上泉『へぼ侍』(文藝春秋)、第四十一回小説推理新人賞は戦前に警察署長をしていた祖父の告白が意外な展開をたどる上田未来「濡れ衣」(「小説推理」二〇一九年九月号)、第二十九回鮎川哲也賞はSFミステリの方丈貴恵『時空旅行者の砂時計』(東京創元社)、第十六回ミステリーズ!新人賞は動画配信をしていたという容疑者のアリバイを崩す床品美帆「二万人の目撃者」(「ミステリーズ!」vol.97)、第六回新潮ミステリー大賞の優秀賞をアパートを舞台にした日常の謎ものとして進む『箱とキツネと、パイナップル』、第三回大藪春彦新人賞は人殺しを告白した男が本当に犯人なのかが議論される青砥瑛「ぼくのすきなせんせい」(「読楽」二〇二〇年一月号)が受賞した。ネット炎上を処理する仕事をしている女性が陰謀に巻き込まれる『ノワールをまとう女』(講談社)で第六十五回江戸川乱歩賞を受賞した神護かずみは、最年長の受賞者である。第九回アガサ・クリスティー賞は、正体不明のウイルスに感染したクルーとともに宇宙船が日本に墜落する穂波了『月の落とし子』(早川書房)、ヴィシー政権下の小さな村で匿われていたレジスタンスが殺される折輝真透『それ以上でも、それ以下でもない』(早川書房)と、同賞初の二作品同時受賞となった。横溝正史ミステリ大賞は、日本ホラー小説大賞と統合され第三十九回横溝正史ミステリ&ホラー大賞となった。昨年は一昨年と同じく大賞は該当作なしだったが、北見崇史『出航』(KADOKAWA)が優秀賞、滝川りさ『お孵り』(角川ホラー文庫)が読者賞を受賞した。新たに始まった第一回警察小説大賞は、働かない警察官たちが難事件に挑む佐野晶『GAP ゴーストアンドポリス』(小学館)が受賞した。
 時代ミステリの夕木春央『絞首商會』(講談社)、SNSの炎上を題材にした真下みこと『#柚莉愛とかくれんぼ』はそれぞれ、第六十回と六十一回のメフィスト賞受賞作。第十七回『このミステリーがすごい!』大賞からは、大賞の倉井眉介『怪物の木こり』、優秀賞の井上ねこ『盤上に死を描く』、U-NEXT・カンテレ賞の登美丘丈『名もなき復讐者 ZEGEN』(すべて宝島社文庫)などが刊行された。
 アンソロジーは、日本推理作家協会編『沈黙の狂詩曲(ラプソディ)』『喧騒の夜想曲(ノクターン)』(共に光文社)、折原一ほか『自薦THEどんでん返し3』、今野敏ほか『警官の目』(共に双葉文庫)、馳星周選『闇冥』(ヤマケイ文庫)、光文社文庫編集部編『街を歩けば謎に当たる』(光文社文庫)、アミの会(仮)『嘘と約束』(光文社)、同『初恋』(実業之日本社文庫)、長山靖生編『モダニズム・ミステリ傑作選』(河出書房新社)、村上貴史編『葛藤する刑事たち』(朝日文庫)、新保博久編『銀幕ミステリー倶楽部』(光文社文庫)などが刊行された。
 作家による自伝、エッセイ、評論には、北村薫『本と幸せ』(新潮社)、桜庭一樹『小説という毒を浴びる』(集英社)、皆川博子『彗星図書館』(講談社)、柳広司『二度読んだ本を三度読む』(岩波新書)、森博嗣『森遊びの日々』『森語りの日々』(共に講談社)、森村誠一『永遠の詩情』(KADOKAWA)、豊田有恒『日本SF誕生 空想と科学の作家たち』(勉誠出版)などがある。北上次郎『書評稼業四十年』(本の雑誌社)は、書評家から見たミステリ業界が興味深かった。
 作家研究では、栗本薫の没後十年ということで里中高志『栗本薫と中島梓』と今岡清『世界でいちばん不幸で、いちばん幸福な少女』(共に早川書房)が刊行された。松本清張研究は相変わらず多くみうらじゅん『清張地獄八景』(文藝ムック)、川本三郎『東京は遠かった』(毎日新聞出版)、原武史『「松本清張」で読む昭和史』(NHK出版新書)が出た。石川巧・落合教幸・金子明雄・川崎賢子編『江戸川乱歩新世紀』(ひつじ書房)は、最新の理論で乱歩研究にアプローチした意欲作。浅子逸男『御用!「半七捕物帳」』(鼎書房)は、捕物帳の古典に作品が執筆された当時の時代背景を重ねながら論じた労作である。
 古橋信孝『ミステリーで読む戦後史』(平凡社新書)は戦後ミステリの通史。長山靖生『モダニズム・ミステリの時代 探偵小説が新感覚だった頃』(河出書房新社)は、モダニズム文学と探偵小説の接点を見据えたところが新しい。佳多山大地『トラベル・ミステリー聖地巡礼』(双葉文庫)は鉄道ミステリの舞台探訪記。川野京輔『推理SFドラマの六〇年 ラジオ・ディレクターの現場から』(論創社)、鏡明『ずっとこの雑誌のことを書こうと思っていた』(フリースタイル)、日下三蔵編、鮎川哲也『幻の探偵作家を求めて[完全版]』(上下巻、論創社)には貴重な証言が満載だ。
 復刻では、論創社、河出書房新社、光文社、筑摩書房、中央公論新社、東京創元社、早川書房、柏書房などの常連に加え、捕物出版、書肆盛林堂が気を吐いていた。
 最後にお悔やみを。一月に横田順彌氏、橋本治氏、六月に橋口正明氏、七月に佐藤雅美氏、八月に加納一朗氏、十一月に眉村卓氏が逝去された。
 横田氏は一九四五年生まれ。編集プロダクションなどを経て一九七〇年に「宇宙通信X計画」でデビュー、『宇宙ゴミ大戦争』などのハチャハチャSFで人気を集めた。古典SF研究家としても有名で、評伝『快男児押川春浪』(會津信吾との共著)で第九回日本SF大賞を受賞。『近代日本奇想小説史 明治篇』で第三十二回日本SF大賞特別賞と第六十五回日本推理作家協会賞評論その他の部門を受賞した。
 橋本氏は一九四八年生まれ。東京大学在学中に駒場祭のポスターで注目を集め、イラストレーターを経て『桃尻娘』で作家デビューした。小説、評論、古典の現代語訳など多彩な活動を行い、『蝶のゆくえ』で第十八回柴田錬三郎賞、『双調平家物語』で第六十二回毎日出版文化賞、『草薙の剣』で第七十一回野間文芸賞などを受賞。ミステリに『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』がある。
 橋口氏は一九三一年生まれ。大映東京撮影所助監督、地方紙の記者などを経て『トランク商人』でデビュー、『殺しの決算報告 長篇企業推理』などを発表した。
 佐藤氏は一九四一年生まれ。雑誌記者、フリーライターを経て『大君の通貨』でデビュー、同作で第四回新田次郎文学賞を受賞した。江戸の民事裁判を描く『恵比寿屋喜兵衛手控え』で第一一〇回直木賞を受賞。丹念な時代考証を施した捕物帳〈半次捕物控〉〈物書同心居眠り紋蔵〉シリーズなどを残した。
 加納氏は一九二八年生まれ。地方公務員を経て出版社に勤務。一九六〇年、同人誌「宇宙塵」に発表したSF「錆びついた機械」が雑誌「宝石」に転載された。ミステリ『歪んだ夜』『シャット・アウト』、ジュブナイル『夕焼けの少年』、テレビアニメ『エイトマン』『スーパージェッター』の脚本などを手掛けた。『ホック氏の異郷の冒険』で第三十七回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。長年にわたり、日本推理作家協会の土曜サロンの幹事として活躍された。
 眉村氏は一九三四年生まれ。大学卒業後メーカー勤務、嘱託コピーライターを経て「下級アイデアマン」でデビュー。〈司政官〉シリーズの『消滅の光輪』で第七回泉鏡花文学賞と第十回星雲賞日本長編部門を、同じシリーズの『引き潮のとき』で第二十七回星雲賞日本長編部門を受賞。ジュブナイルSF『なぞの転校生』『ねらわれた学園』は何度もドラマ化や映画化されている。病床の妻に毎日ショートショートを贈ったエピソードは『僕と妻の1778の物語』として映画化された。