推理小説・二〇二〇年

末國善己

 二〇二〇年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる混乱が続いた年となった。
 四月七日に発出され、首都圏と北海道では五月二十五日まで続いた非常事態宣言は、「小説現代」「小説すばる」が五月の発売を延期し、翌月に六・七月合併号として刊行するなど、出版スケジュールにも影響を与えた。その一方、講談社の文芸ニュースサイト「tree」で、作家が日替わりで新型コロナ下の日常を描く小説、エッセイを連載する「Day to Day」(五月一日~八月八日)が始まり、十一人の作家が参加したアンソロジー『ステイホームの密室殺人 1』『ステイホームの密室殺人 2』(共に星海社FICTIONS)が刊行されるなど、新型コロナを題材にした企画も生まれた。
〈チーム・バチスタ〉シリーズの田口、白鳥らが登場する海堂尊『コロナ黙示録』(宝島社)、新型コロナ禍の池袋を舞台にした収録作もある石田衣良『獣たちのコロシアム 池袋ウエストゲートパークXVI』(文藝春秋)、新型コロナでネット上での誹謗中傷が増している状況を反映させた下村敦史『同姓同名』(幻冬舎)、アニメ業界を舞台にしたお仕事小説で新型コロナの影響も活写されている塩田武士『デルタの羊』(KADOKAWA)、新型コロナで町おこしが頓挫した町で殺人事件が起こる東野圭吾『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』(光文社)、バブル期と新型コロナ禍の日本を対比しながら進む葉真中顕『そして、海の泡になる』(朝日新聞出版)、新型コロナ禍の警察捜査を描いた榎本憲男『インフォデミック 巡査長真行寺弘道』(中公文庫)、吉川英梨『月下蝋人 新東京水上警察』(講談社文庫)など、新型コロナがもたらした社会と価値観の変容をいち早く取り込んだ作品が相次いだ。
 執筆時期から考えて新型コロナを意識した訳ではないだろうが、貴志祐介『罪人の選択』(文藝春秋)所収の「赤い雨」、中山七里『ヒポクラテスの試練』(祥伝社)、穂波了『売国のテロル』(早川書房)、市川憂人『揺籠のアディポクル』(講談社)、伊岡瞬『赤い砂』(文春文庫)、五十嵐貴久『バイター』(光文社)、北里紗月『連鎖感染 chain infection』(講談社)などは感染症を題材にしており、結果的に時宜を得た刊行になったといえる。
「密」を避ける必要から、文学賞、新人賞は贈呈式、祝賀会の延期、縮小が相次いだ。第七十三回日本推理作家協会賞は、長編および連作短編集部門を呉勝浩『スワン』(KADOKAWA)、短編部門を矢樹純「夫の骨」(『夫の骨』所収、祥伝社文庫)、評論・研究部門を金承哲『遠藤周作と探偵小説 痕跡と追跡の文学』(教文館)が受賞、第六十六回江戸川乱歩賞は佐野広実『わたしが消える』(講談社)が受賞したが、通常の贈呈式は開催されず、十二月九日に最小限の関係者とリモートで合同の簡易的な式が行われた。
 続けて文学賞を概観すると、第一六二回直木賞を川越宗一『熱源』(文藝春秋)、第一六三回直木賞を馳星周『少年と犬』(文藝春秋)が受賞。第二十二回大藪春彦賞は大藪春彦新人賞出身の赤松利市『犬』(徳間書店)が受賞。第二十三回日本ミステリー文学大賞の大賞は、辻真先に贈られた。第五十四回吉川英治文学賞は第四十回以来の受賞作なし。第四十一回吉川英治文学新人賞は呉勝浩『スワン』と今村翔吾『八本目の槍』(新潮社)、第五回吉川英治文庫賞は小野不由美〈十二国記〉シリーズが受賞した。第三十三回柴田錬三郎賞は伊坂幸太郎『逆ソクラテス』(集英社)、第二十回本格ミステリ大賞の小説部門は相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(講談社)、評論・研究部門は長山靖生『モダニズム・ミステリの時代 探偵小説が新感覚だった頃』(河出書房新社)、第十一回山田風太郎賞は今村翔吾『じんかん』(講談社)が受賞した。
 新人賞は、第二十三回日本ミステリー文学大賞新人賞を、選考委員の賛否がわかれたことも話題となった城戸喜由(受賞時は「城戸舞殊」)『暗黒残酷監獄』(光文社)が最年少で受賞。第十二回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞は、雪深い山村で複雑な家系の相続をめぐって不可解な殺人が発生する森谷祐二『約束の小説』(原書房)、第二十七回松本清張賞は、唐代末期を舞台に武術の達人の美少女が活躍する千葉ともこ『震雷の人』(文藝春秋)、第四十二回小説推理新人賞は、高校を舞台にした日常の謎ものの藤つかさ「見えない意図」(「小説推理」二〇二〇年八月号)、第二回警察小説大賞は、肉体派と頭脳派の二人の刑事を主人公にした鬼田隆治『対極』(小学館)、第三十回鮎川哲也賞は、目撃者が犯人の服の色についてバラバラの証言をする千田理緒『五色の殺人者』(東京創元社)が受賞。第十七回ミステリーズ!新人賞は、ホラーと謎解きを融合した大島清昭「影踏亭の怪談」と高齢者介護をめぐる事件を描いた大和浩則(受賞時は「オオシマカズヒロ」)「噛む老人」(共に「ミステリーズ!」Vol.103)の同時受賞となった。第七回新潮ミステリー大賞は、ハードボイルド系の物語がファンタジーにシフトする荻堂顕『擬傷の鳥はつかまらない』(受賞時タイトル「私たちの擬傷」)(新潮社)、第四回大藪春彦新人賞は、女性だけの三人家族が死体隠蔽を迫られる野々上いり子「葱青」、第十回アガサ・クリスティー賞は、ロボット掃除機になった刑事を探偵役にしたそえだ信『地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険』(早川書房)、第八回ハヤカワSFコンテストの優秀賞は、AI技術者が鉄壁の警備システムを破るケイパーものの竹田人造『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』(ハヤカワ文庫)、第十二回角川春樹小説賞は、女房を質に入れて姿を消した彰義隊員を浪人が捜す渋谷雅一『質草女房』〈受賞時タイトル「すっきりしたい」)(角川春樹事務所)、第十一回小説野性時代新人賞は、江戸時代の歌舞伎に関する圧倒的な知識を謎解きにからめた蝉谷めぐ実『化け者心中』(KADOKAWA)の受賞となった。ホラーとミステリを融合させた原浩『火喰鳥を、喰う』(受賞時タイトル「火喰鳥」)(KADOKAWA)は、第四十回横溝正史ミステリ&ホラー大賞に相応しい受賞作といえる。
 ゲームとしての裁判と刑事裁判の二種類の法廷ミステリを描き、各種ミステリ・ベスト10の上位にランクインした五十嵐律人『法廷遊戯』(講談社)は、第六十二回メフィスト賞の受賞作。第十八回このミステリーがすごい!大賞は、大賞の歌田年『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』(宝島社)、優秀賞の朝永理人『幽霊たちの不在証明』、U-NEXT・カンテレ賞の貴戸湊太『そして、ユリコは一人になった』、隠し玉の久真瀬敏也『ガラッパの謎 引きこもり作家のミステリ取材ファイル』、藍沢今日『犬の張り子をもつ怪物』(すべて宝島社文庫)が刊行された。
 二〇二〇年は本格の秀作が目に付いたが、まずは若い世代を刺激する作品を発表し続けている御大・辻真先『たかが殺人じゃないか』(東京創元社)を挙げたい。戦前は軍国主義を、戦後は民主主義を教えられた新制高校の生徒たちが、不可能犯罪の謎解きを通して社会の欺瞞を暴く展開は、戦中派の辻にしか書けなかったといえる。
 二人以上を殺した人間が〝天使〟によって地獄に引きずり込まれるようになった世界で、連続殺人事件が発生する斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』(早川書房)、昭和史をゆるがせた凶悪犯が蘇り、かつての凶行を想起させる事件を起こす白井智之『名探偵のはらわた』(新潮社)、特異な設定を施した阿津川辰海の短編集『透明人間は密室に潜む』(光文社)、周囲の人間の推理力を向上させる男が登場する大山誠一郎『ワトソン力』(光文社)など特殊設定ものも多かった。その中でも〈Another〉シリーズの第三弾となる綾辻行人『Another 2001』(KADOKAWA)は、ベテランが確かな実力を発揮していた。
 米澤穂信『巴里マカロンの謎』(創元推理文庫)は〈小市民〉シリーズの十一年ぶりの、谷川流『涼宮ハルヒの直観』(角川スニーカー文庫)はシリーズ九年半ぶりの、折原一『傍聴者』(文藝春秋)は〈○○者〉シリーズの六年ぶりの新作。深木章子『欺瞞の殺意』(原書房)は、書簡体形式を用いた多重解決もの。櫻田智也『蝉かえる』(東京創元社)は、ホワットダニットものの連作集。彩坂美月『向日葵を手折る』(実業之日本社)は、山村に引っ越した小学校六年生の少女が経験する事件と成長を追う青春ミステリ。ロンドンで見つかった鶴屋南北の未発表作品をめぐり連続殺人が起こる芦辺拓『鶴屋南北の殺人』(原書房)は、歌舞伎と江戸文化の膨大な情報を謎解きに結び付けていた。
 社会的なテーマを取り上げた作品には、『希望が死んだ夜に』の続編で、トリッキーな展開の中に、児童虐待が起こり、それが連鎖するメカニズムを織り込んだ天祢涼『あの子の殺人計画』(文藝春秋)、東北地方の怨念を活写した赤松利市『アウターライズ』(中央公論新社)、轢き逃げで懲役刑になった男を主人公に贖罪とは何かを問う薬丸岳『告解』(講談社)、自殺問題に迫った逸木裕『銀色の国』(東京創元社)、表現の自由に正面から切り込んだ桐野夏生『日没』(岩波書店)、大蔵省のエリート官僚がノーパンしゃぶしゃぶ店で接待を受けた事件をモデルに、日本が凋落した原点を見据えた月村了衛『奈落で踊れ』(朝日新聞出版)、外国人労働者、シングルマザー、原発、科学者の倫理などのテーマを俎上に乗せた伊与原新『八月の銀の雪』(新潮社)、監視社会の恐怖を描く清水杜氏彦『少女モモのながい逃亡』(双葉社)が印象に残っている。
 広島のマル暴刑事・大上と最凶の愚連隊を率いる沖の壮絶な戦いが繰り広げられる柚月裕子『暴虎の牙』(KADOKAWA)は、〈孤狼の血〉シリーズの完結編。深町秋生『煉獄の獅子たち』(KADOKAWA)は、暴力団員になりすました刑事を主人公にした『ヘルドッグス 地獄の犬たち』(KADOKAWA)の前日譚である。今野敏『清明 隠蔽捜査8』(新潮社)は、長く警視庁大森署の署長を務めた竜崎が、神奈川県警の刑事部長になり、新たな場所、新たな役職で難事件に挑んでいた。〈狩人〉シリーズの六年ぶりの新作となる大沢在昌『冬の狩人』(幻冬舎)は、H県で起きた兇悪事件を調べるため、新宿警察署の佐江が、ホームグラウンドを離れ戦うことになる。坂上泉『インビジブル』(文藝春秋)は、一九四九年から一九五四年まで実在した大阪市警視庁を舞台にした警察小説で、現代と共通する社会の闇を浮かび上がらせていた。最新の潜水調査船を積んだ母船がシージャックされる真保裕一『ダーク・ブルー』(講談社)は、深海を舞台にした海洋冒険小説。長浦京『アンダードッグス』(KADOKAWA)は、イタリア人の富豪により世界中から集められた負け犬の素人たちが、香港返還前夜にプロを相手に危険な任務に挑む冒険小説である。
 二〇二〇年は、七年ぶりに池井戸潤の原作をドラマ化した『半沢直樹』の続編が放送され、それに併せ六年ぶりの新作『アルルカンと道化師』(講談社)も刊行された。
 芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』(文藝春秋)は、ミスを隠そうとして事態を悪化させる主人公たちを描く連作集。逢坂剛『鏡影劇場』(新潮社)は、ドイツの幻想小説作家ホフマンをめぐるビブリオ・ミステリである。
 商売ものと捕物帖を結び付けた宮部みゆきの新シリーズ『きたきた捕物帖』(PHP研究所)、十年ぶりの倒叙捕物帳シリーズの新作となる風野真知雄『同心亀無剣之介 やぶ医者殺し』(コスミック・時代文庫)、平安時代を舞台にした安楽椅子探偵ものの汀こるもの『探偵は御簾の中 検非違使と奥様の平安事件簿』(講談社タイガ)、アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』の手法を用いて、本能寺の変の知られざる真相に迫る田中啓文『信長島の惨劇』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)などが、時代ミステリの成果といえる。
 アンソロジーでは、〈異形コレクション〉シリーズが九年ぶりに復活し、第四十九巻『ダーク・ロマンス』と第五十巻『蠱惑の本』(共に光文社文庫)が刊行されたのが最大の事件だろう。一九七三年から七四年にかけて全十二号が刊行された怪奇幻想小説の専門誌「幻想と怪奇」(新紀元社)が復活したのも、大きな驚きだった。復刊では、山村正夫『断頭台/疫病』、草上仁『キスギショウジ氏の生活と意見』、戸川昌子『くらげ色の蜜月』、生島治郎『頭の中の昏い唄』(すべて日下三蔵編、竹書房文庫)が、ミステリ史の空白を埋める重要な仕事となっていた。
 作家のエッセイ、インタビュー、対談は、北村薫『ユーカリの木の陰で』(本の雑誌社)、日下三蔵編『皆川博子随筆精華 書物の森を旅して』(河出書房新社)、森博嗣『森メトリィの日々』(講談社)、綾辻行人『シークレット 綾辻行人ミステリ対談集 in 京都』(光文社)、瀧井朝世『ほんのよもやま話 作家対談集』(文藝春秋)などが刊行された。作家研究には、松本清張と新聞小説を論じた山本幸正『松本清張が「砂の器」を書くまで ベストセラーと新聞小説の一九五〇年代』(早稲田大学出版部)、山村美紗の謎に包まれた私生活を、夫と西村京太郎との関係からあぶり出した花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』(西日本出版社)、小野純一編『大阪圭吉 自筆資料集成』(盛林堂ミステリアス文庫)は、大阪圭吉の自筆資料の復刻に解説を加えた一冊。現代作家の「悪」の表現を論じた鈴村和成『笑う桐野夏生 〈悪〉を書く作家群』(言視舎)、二人の作家を比較し共通の問題意識を抽出した飯城勇三『数学者と哲学者の密室 天城一と笠井潔、そして探偵と密室と社会』(南雲堂)、河出書房新社編集部編『赤江瀑の世界 花の呪縛を修羅と舞い』(河出書房新社)、乱歩の表現を分析した今野真二『乱歩の日本語』(春陽堂書店)、本格ミステリ大賞の受賞作を論じた南雲堂編『本格ミステリの本流 本格ミステリ大賞20年を読み解く』(南雲堂)などがあった。
 野崎六助『北米探偵小説論21』(インスクリプト)は、前作『増補改訂版 北米探偵小説論』から約二十年の社会の変遷を踏まえて大幅な増補改訂を加えた大著。海外のクラシック本格ミステリを縦横に論じた真田啓介『真田啓介ミステリ評論集 古典探偵小説の愉しみⅠ フェアプレイの文学』と『真田啓介ミステリ評論集 古典探偵小説の愉しみⅡ 悪人たちの肖像』(共に荒蝦夷)も労作といえる。
 荒俣宏監修・奈落一騎著『乱歩にまつわる言葉をイラストと豆知識で妖しく読み解く 江戸川乱歩語辞典』、木魚庵『名探偵にまつわる言葉をイラストと豆知識で頭をかきかき読み解く 金田一耕助語辞典』(共に誠文堂新光社)は、日本を代表する名探偵についてまとめたもので、初心者からマニアまで楽しめる内容に仕上がっていた。
 新保博久『シンポ教授の生活とミステリー』(光文社文庫)は、ミステリの論集であると同時に、評論家人生を綴った自伝にもなっていた。新井久幸『書きたい人のためのミステリ入門』(新潮新書)は、長年ミステリ作家の担当編集を務めた著者が、ミステリの書き方を伝授する一冊だが、ミステリを面白く読むためのコツも満載だ。
 最後にお悔やみを。一月に藤田宜永氏、二月に浦賀和宏氏、三月に誉田龍一氏、勝目梓氏、中村正軌氏、五月に野間美由紀氏、八月に桂千穂氏、九月に浅黄斑氏、十一月に小林泰三氏が逝去された。
 藤田氏は、一九五〇年生まれ。早稲田大学中退後にフランスに渡り航空会社に勤務。翻訳家を経て、一九八六年に『野望のラビリンス』でデビュー、一九九五年に、日本人の青年が第二次大戦前夜のヨーロッパでグランプリレースの世界に飛び込む『鋼鉄の騎士』で第四十八回日本推理作家協会賞の長編部門、第十三回日本冒険小説協会の黄金の鷲部門大賞を受賞した。恋愛小説も手掛け、一九九九年に『求愛』で第六回島清恋愛文学賞、二〇〇一年に、『愛の領分』で第一二五回直木賞を受賞。二〇一七年に、大雪で閉ざされた町を舞台に六つの物語を紡いだ『大雪物語』で第五十一回吉川英治文学賞を受賞している。
 一九七八年生まれの浦賀氏は、享年四十一の早過ぎる死だった。一九九八年に、SF、ミステリ、青春小説を融合させた『記憶の果て』で第五回メフィスト賞を受賞してデビュー、この作品に登場した安藤直樹の活躍はシリーズ化された。没後に遺稿の『殺人都市川崎』が刊行されている。
 誉田氏は、一九六三年生まれ。早稲田大学中退後、学習塾講師を経て、榎本釜次郎(武揚)を探偵役にした「消えずの行灯」で第二十八回小説推理新人賞を受賞してデビュー。時代小説、時代ミステリの世界で活躍し、P・D・ジェイムズ『女には向かない職業』へオマージュを捧げた『よろず屋お市 深川事件帖』などを発表している。
 勝目氏は、一九三二年生まれ。一九七四年に「寝台の方舟」で第二十二回小説現代新人賞を受賞。暴力とエロスを前面に押し出した『獣たちの熱い眠り』などで人気作家となる。晩年は『小説家』などの私小説でも話題を集めた。
 中村氏は、一九二八年生まれ。学習院大学卒業後、日本航空に勤務。第八十四回直木賞受賞作『元首の謀叛』や、『貧者の核爆弾』など国際謀略小説の世界で活躍した。
 野間氏は、一九六〇年生まれ。一九七九年に『トライアングル・スクランブル』でデビュー。一九八三年にスタートした『パズルゲーム☆はいすくーる』は、少女漫画雑誌におけるミステリの先駆けとなり、シリーズ化されてライフワークとして書き継がれたが絶筆となってしまった。
 桂氏は、一九二九年生まれ。映画、テレビの脚本を手掛けながら、ブラム・ストーカー『ドラキュラの客』を翻訳するなど、海外の怪奇小説、怪奇映画の紹介を行った。
 浅黄氏は、一九四六年生まれ。関西大学卒業。一九九二年に「雨中の客」で第十四回小説推理新人賞を受賞、『死んだ息子の定期券』『海豹亭の客』で第四回日本文芸家クラブ大賞を受賞した。その後、時代小説にシフトし『無茶の勘兵衛日月録』『胡蝶屋銀治図譜』などを残した。
 小林氏は、一九六二年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了。一九九五年に「玩具修理者」で第二回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞してデビュー。『肉食屋敷』などのホラー、第四十三回星雲賞日本長編部門を受賞した『天獄と地国』、第四十八回星雲賞日本長編部門を受賞した『ウルトラマンF』などのSF、『密室・殺人』『アリス殺し』などのミステリと、三つのジャンルで活躍した。