推理小説・二〇一八

末國善己

 二〇一八年は、明治維新から一五〇年目の節目だった。それを意識したのかは分からないが、本格、警察小説、冒険小説などジャンルを問わず明治以降の近現代史、しかも〝光〟ではなく〝影〟を題材にした作品が多かった。
 アクションと謎解きが融合した戸南浩平『菩薩天翅』(光文社)、最後の将軍が襲われた事件が巨大な陰謀に繋がる須田狗一『徳川慶喜公への斬奸状』(光文社)は、明治の世相が背景に置かれていたが、全体で最も充実していたのは昭和史である。
 奥泉光『雪の階』(中央公論新社)は、数多い二・二六事件ものの中でも最高傑作といえる。大掛かりなトリックが出てくる辻真先『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』(東京創元社)、古今の名探偵たちを共演させた芦辺拓『帝都探偵大戦』(東京創元社)は、ミステリは平和な時代しか書けず、ミステリを弾圧する風潮はいつ始まってもおかしくないとの警鐘を鳴らしたのが印象深い。
 北支方面で分隊員十名が謎の死を遂げた事件に探偵作家が挑む浅田次郎『長く高い壁』(KADOKAWA)、敵に囲まれた川の中州で連続殺人が起こる古処誠二『生き残り』(KADOKAWA)は、典型的な日本型の組織である日本軍を用いることで、日本論、日本人論としても秀逸な物語を作った戦場ミステリである。
 大戦末期の北海道室蘭を舞台に、日本人の父とアイヌの母を持つ特高刑事の日崎が活躍する葉真中顕『凍てつく太陽』(幻冬舎)、ある任務を与えられた少女とユダヤ人だという泥棒が大戦直後のベルリンを旅する深緑野分『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)、一九五二年から一九七二年までの沖縄を舞台に、本格ミステリ、警察小説、犯罪小説、青春小説などのジャンルをミックスさせながらダイナミックな物語を紡いだ真藤順丈『宝島』(講談社)は、国家とは、民族とは何かを問い、世界的にマイノリティへの不寛容が広がっている状況に一石を投じていた。
 現代と戦時中の日本が二重写しになる現象が発生する宮内悠介『ディレイ・エフェクト』(文藝春秋)は、SF的な手法で戦後史を問い直すテーマに圧倒された。現代の事件を契機に、よど号ハイジャックの隠された真相が暴かれる伊東潤『ライト マイ ファイア』(毎日新聞出版)海外の諜報機関と戦う警視庁公安部に配属された刑事が、ロッキード事件、東芝のCOCOM違反、地下鉄サリン事件などにかかわっていく月村了衛『東京輪舞』(小学館)は、虚実の皮膜を操ることで戦後日本の闇をあぶり出していた。原りょうの十四年ぶりの新作『それまでの明日』(早川書房)は、探偵の沢崎が巻き込まれる事件を通して、沢崎が不在だったあいだに日本人の労働観、家族観、金銭感覚がどれほど変容したかを的確に捉えていた。
 東京大空襲の日に起きた殺人事件を、所轄と特高の刑事が追う堂場瞬一『焦土の刑事』(講談社)は、二人を主人公にした大河警察小説になるようなので今後が楽しみだ。
 奥泉光『雪の階』が第七十二回毎日出版文化賞文学・芸術部門と第三十一回柴田錬三郎賞を、真藤順丈『宝島』が第九回山田風太郎賞を受賞したことからも、各作家の問題意識が高く評価されたことが分かる。ここで文学賞を受賞した作品に目を向けると、宮沢賢治を父親の視点で描いた門井慶喜『銀河鉄道の父』(講談社)が第一五八回直木賞を、女子大生が画家の父親を殺した事件の真相を臨床心理士が追う島本理生『ファーストラヴ』(文藝春秋)が第一五九回直木賞を受賞。第二十回大藪春彦賞は、江戸川乱歩賞出身の呉勝浩『白い衝動』(講談社)、佐藤究『Ank: a mirroring ape』(講談社)の二人が受賞、佐藤の『Ank』は第三十九回吉川英治文学新人賞を受賞した。第二十一回日本ミステリー文学大賞は、夢枕獏に贈られた。戦国時代から江戸時代末までの日本のキリシタンたちの歴史を描く帚木蓬生『守教』(新潮社)は、第五十二回吉川英治文学賞を受賞。第七十一回日本推理作家協会賞は、長編および連作短編集部門を古処誠二『いくさの底』(KADOKAWA)、短編部門を降田天「偽りの春」(「小説野性時代」二〇一七年八月号)、評論・研究部門を宮田昇『昭和の翻訳出版事件簿』(創元社)が受賞。第十八回本格ミステリ大賞は、小説部門を今村昌弘『屍人荘の殺人』(東京創元社)、評論・研究部門をパスティーシュと評論からなる飯城勇三『本格ミステリ戯作三昧 贋作と評論で描く本格ミステリ十五の魅力』(南雲堂)を選出した。第三十四回坪田譲治文学賞は風船ロケットで成層圏を目指す小学生たちを主人公にした青春ミステリの八重野統摩『ペンギンは空を見上げる』(東京創元社)が受賞、おそらくミステリが同賞を受賞したのは史上初ではないか。
 昨年は五つの新人賞が受賞作なしだったので、まずは受賞作が出なかった新人賞から見ていくと、第四十回小説推理新人賞は何気ない日常がミステリに転じる咲沢くれは「五年後に」(「小説推理」二〇一八年八月号)、第六十四回江戸川乱歩賞は南極を舞台にした冒険小説色の強い斉藤詠一『到達不能極』(講談社)、第十五回ミステリーズ!新人賞は『平家物語』の世界を用いた時代ミステリの齊藤飛鳥「屍実盛」(「ミステリーズ!」vol.91)、第五回新潮ミステリー大賞は記憶を取引する店が出てくる結城真一郎「スターダスト・ナイト」と、昨年の空白を埋めるかのような力作が揃った。ただ第三十八回横溝正史ミステリ大賞だけは、昨年に続き受賞作なしとなった。
 第二十一回日本ミステリー文学大賞新人賞の北原真理『沸点桜』(光文社)は正統的なハードボイルド、第二十八回鮎川哲也賞は青春ミステリの川澄浩平『探偵は教室にいない』(東京創元社)が受賞、第二十七回鮎川哲也賞の最終候補になった戸田義長の捕物帳『恋牡丹』(創元推理文庫)も刊行された。閻魔大王の娘が殺された被害者本人に犯人を推理させる木元哉多『閻魔堂沙羅の推理奇譚』(講談社タイガ)、コンビニを舞台にした日常の謎もの秋保水菓『コンビニなしでは生きられない』(講談社)、引きこもりやニートの若者が異形のモノになる社会を舞台にした黒澤いづみ『人間に向いてない』(講談社)、いわゆる「セカイ系」のエッセンスを取り込んだ名倉編『異セカイ系』(講談社タイガ)は、第五十五回から第五十八回までのメフィスト賞受賞作。ばらのまち福山ミステリー文学新人賞からは、文楽の世界を舞台にした第九回準優秀作の稲羽白菟『合邦の密室』(原書房)、元警官の女性探偵が自殺した姉の息子の死の真相を調べる第十回受賞作の松嶋智左『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』(講談社)が刊行された。第八回アガサ・クリスティー賞を受賞したオーガニックゆうき『入れ子の水は月に轢かれ』(早川書房)は、水死体が沖縄の戦後史の闇を浮かび上がらせる物語である。
『このミステリーがすごい!』大賞からは、第十六回大賞の蒼井碧『オーパーツ 死を招く至宝』(宝島社)のほか、第十六回優秀賞の田村和大『筋読み』、くろきすがや『感染領域』(共に宝島社文庫)、第十六回隠し玉の宮ヶ瀬水『三度目の少女』、福田悠『本所憑きもの長屋 お守様』(共に宝島社文庫)がデビューした。
 第一回大藪春彦新人賞は赤松利市「藻屑蟹」(「読楽二〇一八年三月号)が受賞。「六十二歳、住所不定、無職」の肩書きも話題の赤松は、貧困にあえぐ男たちが一攫千金を狙う『鯖』(徳間書店)、自首した六人の供述から旅館の総支配人殺しの意外な動機が明らかになる『らんちう』(双葉社)を立て続けに刊行する大型新人となった。
 原りょうが待望の新作を発表した以外にも、梅原克文の七年ぶりの新作で、謎の生命体と警察、自衛隊の戦いを描くSF冒険活劇『テュポーンの楽園』(KADOKAWA)、高野史緒の六年ぶりの長編となる時代ミステリ『翼竜館の宝石商人』(講談社)、〈粘膜〉シリーズの六年ぶりの新作で、飴村行の暗黒の少年探偵団ものとでもいうべき『粘膜探偵』(角川ホラー文庫)、倉数茂の五年ぶりの新作で幻想小説色が強い『名もなき王国』(ポプラ社)も刊行されたまた、寡作として知られる倉知淳は、『豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件』(実業之日本社)、『ドッペルゲンガーの銃』(文藝春秋)と二冊の新刊を刊行している。
 本格ミステリは、予言の場に立ち会った人たちが次々と殺されていく有栖川有栖『インド倶楽部の謎』(講談社ノベルス)、怪異と論理的推理を結び付ける〈刀城言耶〉シリーズの三津田信三『碆霊の如き祀るもの』(原書房)、直観力と論理的思考に優れた二人の女子高生が探偵役の麻耶雄嵩『友達以上探偵未満』(KADOKAWA)、アマゾン奥地で発見された未知の民族をめぐって起こる殺人を連作形式で描く鳥飼否宇『隠蔽人類』(光文社)、本格の様々な趣向を織り込んだ霞流一『パズラクション』(原書房)、探偵ガリレオの異名を持つ湯川が活躍するシリーズの最新作となる東野圭吾『沈黙のパレード』(文藝春秋)など中堅、ベテランが力作を発表した。その一方で、外壁はコンクリート、部屋と通路の隔壁はガラス素材でできた一画に閉じ込められた人たちが殺されていく市川憂人『グラスバードは還らない』(東京創元社)、犯人AIと探偵AIの対決が面白い早坂吝『探偵AIのリアル・ディープラーニング』(新潮文庫nex)、社会批判も含んだグロテスクな設定を謎解きに活かした白井智之『お前の彼女は二階で茹で死に』(実業之日本社)、一昨年デビューした阿津川辰海の第二作『星詠師の記憶』(光文社)、音楽を題材にした鵜林伸也のデビュー長編『ネクスト・ギグ』(東京創元社)など、新人、新鋭も気を吐いており、ジャンルの伝統の継承がうかがえる。
 大山誠一郎『アリバイ崩し承ります』(実業之日本社)、似鳥鶏『叙述トリック短編集』(講談社)など同じトリックに特化した短編集も目に付き、アンソロジー『鍵のかかった部屋 5つの密室』(新潮文庫nex)も刊行された。
 アンソロジーでは、最近の将棋と囲碁の人気を受けてか、山前譲編『傑作ミステリー集 将棋推理 迷宮の対局』(光文社文庫)、『謎々 将棋・囲碁』(角川春樹事務所)が編まれた。そのほかのテーマ別アンソロジーとしては、細谷正充編『なぞとき〈捕物〉時代小説傑作選』(PHP文芸文庫)、『浅見光彦と七人の探偵たち』(論創社)、光文社文庫編集部編『街は謎でいっぱい 日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作家アンソロジー』(光文社文庫)、ミステリー文学資料館編『少年ミステリー倶楽部』(光文社文庫)、『京都迷宮小路 傑作ミステリーアンソロジー』(朝日文庫)などがある。五人の作家が三億円事件に挑んだ日本推理作家協会編『1968 三億円事件』(幻冬舎文庫)は、二〇一八年が三億円事件から五十年の節目だったことから企画されたものである。
 警察小説も、今野敏が『棲月 隠蔽捜査7』(新潮社)、『カットバック 警視庁FCⅡ』(毎日新聞出版)、『エムエス 継続捜査ゼミ2』(講談社)など人気シリーズを書き継ぎ、北方領土の孤島で起きた殺人に、現代の東アジアの緊張を象徴さ沢在昌『漂砂の塔』(集英社)、年金不正受給、外国人労働者などの社会問題を俎上に乗せた薬丸岳『刑事の怒り』(講談社)、深町秋生の美人すぎる刑事・八神瑛子ものの新作『インジョーカー』(幻冬舎)、第六十九回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞した『孤狼の血』の続編で、田舎の駐在所に異動となった日岡が再びヤクザがからむ事件に巻き込まれていく柚月裕子『凶犬の眼』(KADOKAWA)など、ベテランから若手までが力作を発表することで、ジャンルを盛り上げている。伊兼源太郎は、警察と違って取り上げられることの少ない検察官を主人公にした『地検のS』『巨悪』(共に講談社)を刊行し、新境地を開いている。
 若竹七海『錆びた滑車』(文春文庫)は、不運な私立探偵・葉村晶が文字通り満身創痍になりながら事件を追うハードボイルド。就職が決まらないままクラブで働く女子大生が、客の秘密を知り恐喝をする藤田宜永『彼女の恐喝』(実業之日本社)は、犯罪小説。道尾秀介『スケルトン・キー』(KADOKAWA)は、サイコサスペンスに新風を送り込んだ意欲作。虐待、レイプ、JKビジネスなど女子高生を取り巻く現状を活写した桐野夏生『路上のX』(朝日新聞出版)、傷付いた女性を保護するシェルターを営む女性が焼死したが、DNA鑑定などの結果、連続殺人犯との疑惑がある女性と生前に入れ替わっていた可能性が浮上する篠田節子『鏡の背面』(集英社)、パニック小説の手法で閉鎖的な社会の暗部に迫った櫛木理宇『鵜頭川村事件』(文藝春秋)、誕生日の日に一日だけ二時間おきに入れ替わる双子の兄弟を主人公にした伊坂幸太郎『フーガはユーガ』(実業之日本社)は、現代の日本が直面している社会問題を巧みに取り込んでいた。馳星周は、山岳冒険小説『蒼き山嶺』(光文社)、得意の犬もので少女と少年の再生を描く『雨降る森の犬』(集英社)、自伝的要素を盛り込んだ『ゴールデン街コーリング』(KADOKAWA)など多彩な作品を上梓した。
 近年、歴史時代小説に進出するミステリ作家が増えているが、東山彰良が新選組もの、クライムノベル、ロードノベルを融合した初の時代小説『夜汐』(KADOKAWA)を刊行。京極夏彦の久々の時代小説『ヒトごろし』(新潮社)は、土方歳三が人を殺すという欲望を満足させるために新選組を作ったとの解釈で歴史を読み替えていた。北方謙三は、チンギス・カンの生涯を描く大河ロマン『チンギス紀』(集英社)をスタートさせた。
 エッセイ集は、中山七里『中山七転八倒』(幻冬舎文庫)、日下三蔵編『筒井康隆、自作を語る』(早川書房)などがあり、『皆川博子の辺境薔薇館』(河出書房新社)、『宮部みゆき全一冊』(新潮社)には著者のロングインタビューが付けられている。作家研究は、中相作『乱歩謎解きクロニクル』(言視舎)、高橋敏夫『松本清張「隠蔽と暴露」の作家』(集英社新書)、成田守正『「人間の森」を撃つ 森村誠一作品とその時代』(田畑書店)などが刊行された。押野武志、谷口基、横濱雄二、諸岡卓真編著『日本探偵小説を知る 一五〇年の愉楽』(北海道大学出版会)は、収録された論文に優劣はあるものの、明治から現代までのミステリ史が概観できる。島田荘司『本格からHONKAKUへ 21世紀本格宣言Ⅱ』(南雲堂)は、実作者の立場からここ十年と今後の本格ミステリのあり方を論じていた。藤田直哉『娯楽としての炎上 ポスト・トゥルース時代のミステリ』(南雲堂)は、最新の本格ミステリを軸に、真実がゆらぐ現代社会の実像を捉えていた。
 千街晶之編著『21世紀本格ミステリ映像大全』(原書房)、福井健太『本格ミステリ漫画ゼミ』(東京創元社)、大野茂『2時間ドラマ 40年の軌跡』(東京ニュース通信社)、石上三登志『石上三登志スクラップブック 日本映画ミステリ劇場』(原書房)など、映像や漫画として表現されたミステリのガイド、論集も多く、ジャンルの広がりやジャンルミックスの状況を知ることができる。
 復刻では、河出書房新社のKAWADEノスタルジック探偵・怪奇・幻想シリーズとレトロ図書館、光文社文庫のミステリー・レガシー、ちくま文庫のミステリ短篇傑作選、中公文庫による復刻シリーズなどの登場で、戦前から終戦直後だけでなく、入手が難しかった昭和三十、四十年代の名作が体系的に読めるようになったので、古くからのファンはもちろん、若い読者の参入も期待できるように思える。
 最後におくやみを。一月に井家上隆幸、三月に内田康夫、四月に加藤廣、五月に津本陽、十月に原田裕、和久峻三の各氏が逝去した。井家上隆幸は一九三四年生まれ。出版社勤務を経てフリーになり、様々な雑誌で書評を執筆。冒険小説に造詣が深く『20世紀冒険小説読本【日本篇】【海外篇】』で第五十四回日本推理作家協会賞評論その他の部門を受賞した。内田康夫は一九三四年生まれ。一九八〇年に自費出版した『死者の木霊』が注目を浴び作家デビュー。『後鳥羽伝説殺人事件』に初登場した探偵役の浅見光彦は人気キャラクターになり、シリーズが一一四冊も書き継がれた。二〇〇二年には公募の新人賞「北区内田康夫ミステリー文学賞」の創設に協力、長年にわたる功績により、第十一回日本ミステリー文学大賞を受賞した。加藤廣は一九三〇年生まれ。大学卒業後、中小企業金融公庫、山一證券経済研究所、経営コンサルタントなどを経て七十五歳の時に、織田信長の遺体が消えた謎を追う歴史ミステリ『信長の棺』で作家デビュー。その後も『秀吉の枷』『空白の桶狭間』など、伝奇的な手法で定説を覆す歴史小説を発表した。津本陽は一九二九年生まれ。『深重の海』で第七十九回直木賞、『夢のまた夢』で第二十九回吉川英治文学賞を受賞した。剣豪小説、歴史小説作家との印象が強い津本だが、『南海綺譚』『前科持ち』など警察小説の名作もある。原田裕は一九二四年生まれ。大学卒業後に大日本雄弁会講談社に入社、「講談倶楽部」などの編集者を務め、子会社の東都書房では「日本推理小説大系」「東都ミステリー」を手掛けた。一九八八年に退社後は、新芸術社(現在の出版芸術社)を創業、長年にわたってミステリー、SFの出版に携わった。和久峻三は一九三〇年生まれ。大学卒業後、中日新聞の記者を経て弁護士になる。一九六〇年、「別冊宝石」に滝井峻三名義で「紅い月」を発表してデビュー。法廷ミステリを得意とし、一九七二年に『仮面法廷』で第十八回江戸川乱歩賞、一九八九年に『雨月荘殺人事件』で第四十二回日本推理作家協会賞長編部門を受賞したほか、〈赤かぶ検事〉など幾つもの人気シリーズを手掛けた。