新入会の抱負
新規にお仲間入りさせていただいた赤松利市です。デビュー時に版元さんがお考えいただいたキャッチフレーズは『六十二歳住所不定無職の新人』でした。
確かに当時はホームレスで、風俗店の呼び込みなどで得た日銭で、当てのない日々を送る生活でしたが、それ以前は違いました。三十五歳で起業して、あぶく景気の波に乗り、爾後二十年間、贅沢三昧に暮らしました。一言で申せば、酒池肉林の日々でした。
何しろ経営していた会社というのが、バブルの申し子とも言えるゴルフ場関連の会社でしたので、そりゃ金銭感覚も狂います。
一例をあげますと、あるゴルフ場などは、オーナーの意向で、クラブハウスを中世ヨーロッパの古城風にしたいということで、本当にオランダの古城を買ってしまった。しかしそれをそのまま日本に持って来るのは無理で、解体し、解体したレンガでクラブハウスを組み立てたというのですから、半端ではありません。あのクラブハウス、八十億円だったか、九十億円だったか。十八ホールのゴルフ場造成かかわる費用が、バブル当時でさえ五十四億なのです。ずいぶんと豪華なクラブハウスでした。
あの時代は、何千万もする会員権が飛ぶように売れていましたから、当時の感覚で申しますと、ゴルフ場経営というのは、超高額紙幣を印刷する、私設造幣局さながらの感覚でございました。
そんな感覚で経営しておりましたから、当然の報いとしてゴルフ場は次々に経営破たんし、また私の会社も、二十年目にしてあっけなく潰れてしまったわけでございます。丸裸になりました。
しかしホームレスにまで落剥しても、それほどの惨めさを覚えることはありません。贅沢はやり尽くした。もういいや。そんな感じでございました。
ところが、でございます。ここに至りまして、また欲が出てまいりました。新人賞を受賞してデビューしたのだから、後世に残るような名作を書きたい、と、そんな下衆な欲ではございません。もっとピュアーな欲でございます。
新潮社様の作品の執筆のために、肛門性交を取材しました。もちろんバブルに踊っていた私ですから、肛門性交の一つや二つ、経験がなかったわけではございません。しかしそれは、その場のお遊び、気紛れに試したもので、極めるというにはほど遠いものでした。経験をもとに脚色してもよかったのですが、ディテールにリアリティーを求め取材しましたところ、これがなんと、とてつもない快感を得る行為らしいのでございます。
数多の体験談を貪るように読んで、また経験者から、手に汗握る経験談を聴取するうちに、なぜ自分は、この性行為をスルーしてしまったのだと、まことに悔しい思いに囚われてしまったのでございます。悔しさに身悶えしました。
肛門性交は売防法における「性交」に規定されるものではございません。同法は「性交」を、男性器と女性器の結合の有無に焦点化するものです。これが強制性交等罪(かつての強姦罪)におきましては、性類似行為(肛門性交・口腔性交)にまでに対象が広げられ、法体系の齟齬を指摘する識者もいるようですが、少なくとも現時点において、肛門性交は「性風俗」という括りの中において、違法ではないのでございます。
また肛門性交を目的とした器具類も、一般的なアナルローションやアナルバイブを初めとし、ざっと二千種を超える商品アイテムが紹介されております。この豊富な商品ラインアップもまた、肛門性交の奥深さを示す証左と言えるのではないでしょうか。
特にお奨めいたしたいのが『尻魂弾』(しりこだま)と命名されたアナルプラグでございます。アナルプラグは、主には肛門の拡張器具でございますが、実際に購入して使用しましたところ、シリコンボディーに金属製のボールが内蔵されており、出し入れのたびに内蔵されたメタルボールがカチカチと心地よい刺激を齎すという、なかなかの逸品でございます。
こうなりますとイザ実践と少年の心が逸ります。しかしちょっと待って頂きとうございます。私は今年で六十三歳、いえ、肉体的な衰えを言う者ではございません。そのようなものは勃起薬で、なんとでもなるご時世でございます。生憎私の場合、高血圧の持病がございまして、バイアグラとの相性はあまりよくありません。しかしレビトラ、シアリスがございます。特にシアリスには絶対の信頼を置いている次第でございます。
ただそれでも六十三歳の大人である私は、勃起薬の助けを借り、原稿料を握りしめて風俗店に駆け込むなどと、がっついたことをするには抵抗がございます。
やはり恋愛がしたい。肛門初心者のパートナーを得て、相互の信頼と愛情に基づき、肛門拡張の初期段階から、互いを労わりつつ事を成し、肛門の快楽を味わいたい。あるいは肛門で快楽を知りたい。
それこそが齢六十三を迎え、老い先短い初老の男が、衰えかけた下半身に抱く、真摯にして健気、純真無垢の夢なのでございます。
そのうち協会内に、『肛門性交愛好会』などを、呼びかけたくも考える次第でございます。
小説?
……それは、まあ、ボチボチと。