新年のご挨拶
代表理事 今野敏
あけましておめでとうございます。
昨年は、度重なる台風の列島縦断、御嶽山の水蒸気噴火など、災害も多く、また経済的な格差が広がり、景気は冷え込んだままという、なんだかつらい年だったような気がします。
協会を巡る動きも、決して明るいとは言えませんでした。出版不況と言われて久しく、いっこうに明るい材料が見当たらないようにも思えます。ミステリ自体が衰退しているのではないかという危惧さえ抱いてしまいます。
しかし、新しい年がやってきました。大晦日から元旦は、たった一日経っただけです。それでも、気分が変わるものです。
日本人は、新年を迎えるたびに新しい自分になれる。誰かがそんなことを言っていました。
悪いことを数えても仕方がありません。本が売れないと言いながら、毎月どれだけのミステリが出版されていることでしょう。
出版不況という言葉はもう忘れるべきだと思います。現状を過去のよかった時代と比べているから不況という発想が生まれるのです。現在の状況が、もう当たり前なのだと受け容れてしまうべきでしょう。そして、今こそ、文芸の力を磨くべきだと思います。
最近は、プロットで打ち合わせをする作家や編集者が増えていると聞きます。それでは、作家の地力はつきません。プロットだけでは、小説の魅力はわからないのです。
編集者は恐れずに、作家に原稿を書かせるべきだと思います。プロットの代わりに短編でもいいし、長編の冒頭五十枚でもいいからとにかく作品を書く。それでやり取りをしない限り、作家の力も編集者の力も向上はしないでしょう。
面白く、読み応えのある作品があれば売れるのです。文芸力の低下は、さらなる出版不況を生むことになるでしょう。今こそ、鍛えるべきときです。会員の皆さんの明るい未来を祈念いたします。