ハガキ随想

カビくさい話

長谷川卓也

 noblesse obligeという伝統が欧州にはあるとか。その伝でいけば、ジャーナリスト(に限らず、マスコミ関係者も)は体験した秘聞をいつか公開する義務あり、ではなかろうか。
 私は日本の被占領下、社会部記者だったとき、GHQに占領目的違反容疑で2回も取り調べられた。どちらもヌレ衣で軍事裁判(1審制で即決)は危うく免れたが、検閲や権力側の恣意のコワサを今なお痛感する。
 友人の一部からときどき当時のことを聞かせろと求められるのがきっかけで、昨秋やっと「占領軍の命により」と題し、260枚にまとめた。今どきこんなカビくさい話を面白がる向きは少なかろうが、資料にしとけば、とそれだけのことに過ぎないのだけれど。