第五十九回江戸川乱歩賞授賞式
帝国ホテル富士の間にて
第五十九回江戸川乱歩賞授賞式に決定した竹吉優輔「襲名犯」(「ブージャム狩り」改題)への授賞式が九月六日(金)午後六時より、帝国ホテル「富士の間」にて行われた。
真保裕一常任理事の司会のもと、今野敏理事長から、「今日は西村京太郎さんの八十三歳の誕生日だ。西村さんは第十一回の受賞者で、今日も若い受賞者のお祝いのために駆けつけてくれた。乱歩賞はそれだけ歴史と伝統のある賞である。私は立会理事を務めるなど、この賞に関わって十六年になる。「愛と青春の旅立ち」という映画があるが、厳しい教官であった軍曹が、将校になる卒業生に向かって「サー」という敬称をつけて敬礼するシーンがある。私は受賞者に対していつもそういう気分を感じている。いい作家になってほしい」と挨拶。続いて後援各社を代表して株式会社講談社代表取締役社長の野間省信氏、株式会社フジテレビジョン代表取締役社長亀山千広氏からの祝辞があった。
授賞式に移り、本賞・江戸川乱歩像と副賞一千万円が、今野理事長より竹吉氏に贈られた。
石田衣良、京極夏彦、桐野夏生、今野敏、東野圭吾の選考委員を代表して東野氏が「通常は詳しいことは選評をお読み下さいと、ざっくり済ませればよいのだが、今回はそうはいかない。選評を読めば読むほど、なぜこれが受賞作かわからなくなるからだ。皆さんもう少し細かくほめてほしかった。選考会の前に心配していたが、予想通り選考は難航した。五つの候補作のうち、小説の形になっていないものと、ミステリーの賞に応募してくるなというものを除いた三作が残った。ベストセラー小説に影響されたのか、そのうちの二作が戦時中の話で場所も似ていた。それはいいのだが、このテーマを扱うには掘り下げ方が浅かった。残った本作は得点からいえば二、三番手だった。しかし乱歩賞の壁を乗越えられそうな作品がこれだという雰囲気があった。昨年の最終選考にも残っていた作品が二作残っていた。しかし乱歩賞を乗越える壁が百メートルとすると、彼らは八十メートルの梯子しか用意していない。自分では最終に残り、応募者のトップにいると思っているので、翌年もまた八十メートルの梯子を用意してくる。これではいつまでたっても受賞は叶わない。その点、本作は死刑となった連続殺人犯の模倣犯、心理や状況描写、ミステリーとしての仕掛けの構築など、すべてが難しく、私ならやらないような高いレベルに挑戦していた。うまくいけば楽々壁を乗越えられただろう。しかし現在の本人の体力や技術が及ばず、百メートルの梯子の六十メートルでへばってしまっている。もう少し、いやいやもっと鍛えればなんとか壁を乗越える作家になるだろう。そういう点に期待を込めての受賞になった」と選考経過を報告した。
受賞の挨拶に立った竹吉氏は「幼いころから作家になるのが夢でした。私の作品を評価してデビューのきっかけを与えて下さった選考委員の先生方にまず御礼を申し上げます。襲名という言葉には先代の芸をただ模倣するのではなく、さらに自分の芸を高めその名に格を与えるという意味があります。乱歩賞の受賞者を襲名した以上、常に研鑽し先生方に恥じない作品を書き続け、乱歩賞出身者に竹吉ありといわれるような作家になりたいと考えています。これまで小説は一人で作るものだと思っていました。しかし受賞が決まってから今日まで、たくさんの方々と出会い助けていただきました。右も左もわからない私に、小説家という者のあり方、生き方、考え方を教えて下さった担当の塩見さん、あまりお目にかかれなかったがお世話になった営業部の方々、書店めぐりの際に、売れますかと小声で訊いた時、大丈夫ですよ売ってみせます、大船に乗った気分でいて下さいといってくれた書店員の方々、常に精神面でサポートしてくれた家族と友人の方々。この場で一人一人に感謝の言葉を捧げることはいたしません。私は私の出来ることで感謝の言葉を伝えるつもりです。それは書き続けることです。一人でも面白いといってくれる読者のために一生書き続けていくつもりです。ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします」と思いを語った。
竹吉氏に花束を贈呈した後、北村薫氏の発声により乾杯。五百名近い参加者が竹吉氏の受賞を祝した。