日々是映画日和

日々是映画日和(63)

三橋曉

 3D方式と2D上映だったら、断然2D派の私。加齢ゆえの適応力のなさだろう、メガネを二重にかけるのにどうしても馴れないし、どこかに〝子ども騙し〟と3D映画を侮る気持ちもあるのやもしれぬ。ところが先日、上映時間の都合で〈マン・オブ・スティール〉をやむなく3Dで観たところ、原因不明の偏頭痛に襲われた。さては風邪でもひいたかと体調を疑ったが、メガネを外した途端にケロリと直った。思い当たることといえば、その映画館が採用しているエクスパンド方式という3Dの方式で、これが初体験のわたしの眼には合わなかったのかもしれない。電子回路を内蔵しているためにメガネのレンズ部が重く、バランスも悪い。楽しみにしていたスーパーマン物語の前日譚が、思ったほど楽しめなかったのが、さては3Dメガネとの相性の悪さのせいだったのかと思うと、癪でならない。
 相棒を意味するバディという言葉から、男二人のチームワークや友情を描いた映画をバディ・ムービーというが、〈フェイクシティある男のルール〉を撮ったデヴィッド・エアー監督の〈エンド・オブ・ウォッチ〉もそのひとつだ。自身が十代を過ごしたというロサンジェルス最悪の犯罪多発地帯サウス・セントラルを舞台に、大学で法律を学ぶことを志すジェイク・ギレンホールと、メキシコ系のマイケル・ペーニャというパトロール警官の若手コンビが、物騒な町の治安のため、奔走する。
 ユニークなのは、コンビの片割れが入試課題として仕事中もハンディカムを回していることで、その映像が割り込んできては、臨場感を盛り上げる。騒音の苦情処理から、果ては人身売買や猟奇的な殺人まで、モジュラー型警察小説のように事件が次々描かれていくが、一見無鉄砲とも思える二人の行動が、やがて彼らの正義感や仲間を思う気持ち、家族への愛などを浮き彫りにしていくのだから、エアー監督の腕は確かだ。映画のタイトル(略してEOW)は、警察官が一日の終わりに記する日誌を結ぶ決まり文句で、勤務終了を意味すると同時に、もうひとつ別の意味もある。その意味の重みを知ることになるラストは、観る者の心を揺さぶらずにはおかないだろう。(★★★★)

 スクープを売り物にする雑誌編集部に舞いこんだ一通の手紙から死刑囚に面会した記者は、かつて片棒を担いだ三件の殺人事件が今も未解決だという告白を聞かされる。主犯は〝先生〟と呼ばれる不動産ブローカーで、警察や司直の目を逃れ続けている彼に裁きを受けさせないことには死んでも死にきれない、と男は獄中から訴えた。編集長の村岡希美に押しつけられ、乗り気じゃなかった記者の山田孝之だが、裏づけが取れていくにつれて、憑かれたように事件へとのめりこんでいく。
 「新潮45」編集部編の『凶悪 ある死刑囚の告発』という原作を、衝撃とともにご記憶の方も多いだろう。身寄りのない老人や借金苦の商店主を殺し、大金を手にしていた男たちの背筋も凍る実話を、この〈凶悪〉はピカレスク映画の一級品に仕上げている。死刑囚を演じるピエール瀧のヤクザな男ぶりと、優しく気弱そうに見えながら、サディストの本性をのぞかせるリリー・フランキーの存在感が凄まじく、今年の映画賞レースは、このふたりが助演男優賞を争うであろうことを予感させる。背に腹は変えられず犯人に踊らされる人々や、身勝手な死刑囚とともに、家庭という現実からひたすら目を逸らす主人公記者の姿も描かれ、事件を社会全体の病巣として捉えているところが出色だ。監督は、若松孝二のもとで腕を磨いた白石和彌。(★★★1/2)

 ちょっと意外に思われるかもしれないが、水田伸生監督の〈謝罪の王様〉も、ミステリ映画好きにはこたえられない。東京謝罪センターの所長こと阿部サダヲは、ヤクザの親分への詫び入れから芸能人のお詫び会見まで、どんなトラブルも謝罪で解決するというプロのトラブル・シューターだ。依頼人のひとりだった井上真央もスタッフに加わり、次々と舞い込む厄介な依頼を難なくこなしていたが、そんな彼らに政府から究極の依頼が舞い込む。所長の用意した土下座を越える究極の謝罪とは?
 NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」の大ヒットで、今をときめく宮藤官九郎の脚本が実に冴えている。とりわけ、同じ場面を別の視点から描いて、そこに意外性を浮かび上がらせる技が見事。巧妙に仕込まれた伏線が、随所で大いに効果を発揮している。水谷監督のポップでカラフルな演出も、宮藤脚本を相性が抜群で、実に楽しいエンタテインメントに仕上がっている。(★★★1/2)

 ユン・ジョンビン監督の〈悪いやつら〉は、税関の検査主任の仕事を汚職事件でクビになったチェ・ミンシクと、若くして暴力組織のボスにのしあがったハ・ジュンウの出会いから始まる。互いに遠縁であることを知ったふたりは血縁のもとに結託し、ナイトクラブを乗っ取り、裏社会でのし上がっていく。しかし順風満帆と思われた二人三脚も、やがてカジノの経営をめぐり微妙にすれ違い、ついには仲違いしてしまう。
 親族における序列や法曹界の因襲など、日韓の文化の違いには毎度驚かされるが、本作でチェ・ミンシクが親戚のつてや、法曹界のコネを駆使して見せる腹芸の数々にも唖然とさせられる。ふたりの仲にひびが入る後半は、検事のクァク・ドウォンとの駆け引きへと物語の焦点が移っていく。緊張感のやや薄い展開の中で、そのあたりの知恵比べの緊張感は見どころのひとつといっていいだろう。(★★1/2)

 桁違いに多い全米の大量殺人事件のひとつ、一九八三年にアンカレッジで逮捕されたロバート・ハンセンの事件を映画化したのが、スコット・ウォーカー監督の〈フローズン・グラウンド〉だ。犯人役にジョン・キューザック、捜査官はニコラス・ケイジと、豪華なキャスティングだが、二十人近くを殺し、懲役四六一年という実刑判決を受けた犯人のモンスター像はピントが甘いし、つけたしのように描かれる捜査官の家庭の事情もおざなり感が甚だしい。いささか残念な出来映えに終わっている。(★★)

※★は四つが満点(BOMBが最低点)です。