エースの力投に報いた勝利

新潮社 内田諭

 エースの力投に報いた勝利 新潮社 内田 諭
 去る五月二十一日、逢坂剛さん率いるミステリーズと日本将棋連盟キングスによる草野球交流戦第四回戦が行われました。試合結果とともに、その詳細をご報告いたします。
 試合前日深夜の雷と豪雨により、雨天中止も危ぶまれましたが、当日は見事な快晴、絶好の野球日和となりました。
 我々ミステリーズのグランド集合は、午後二時。集合時間一時間前に、自主練習を兼ねてグランドに併設するバッティングセンターへ向うと、そこには、すでに特打で汗を流すキングスの面々がおります。これまでの対戦成績はミステリーズの二勝一敗、この一戦にかけるキングスの気合いがうかがえます。
 第一試合は練習を挟み、午後二時五十分にプレーボール。ミステリーズの先発は不動のエース、逢坂さんが務めます。先攻を選んだミステリーズは、相手先発の乱調により、先頭打者の逢坂さんから六連続フォアボール。ヒットなしで先制点を得ます。その後も、ヒットと四球が続き、この回一挙11点、試合は一気に決着したかに見えました。というのも、これまでの三試合はいずれも一点を争う緊迫した投手戦が続いていたのです。ミステリーズベンチには、今までにない、和やかな空気が流れました。
 しかし、相手は百戦錬磨のプロ棋士を擁するキングス。勝負勘の鋭い彼らが、この気のゆるみを見逃すはずがありません。まずは、直後の一回裏、二四球で貯めたランナーを、安打でしっかり返すと、そこから四回まで毎回得点で、五点を挙げ、点差を縮めます。いずれも、わずかなチャンスを確実に得点へと結びつける手堅い攻め。対して、我が逢坂投手も、ストライクゾーン中心のテンポよい組み立てから、連打を許さず、後続を打ち取りますが、流れは徐々にキングスへと移っていきます。
 こうなると追加点がほしいミステリーズですが、二回に一点を獲得してからは、二番手投手の放つ、手元でわずかに変化するカーブに苦しめられ、出塁すらできません。初回の勢いはどこに消えたのか、六回までゼロ行進が続きます。さらにキングスは六回裏に、長短打を固め、一挙三点を挙げ、点差は一気に四点まで縮められてしまいます。そもそも相手投手の乱調によって獲得した大量点のため、点差があるにも関わらず、ミステリーズベンチには敗戦を迎えるような重苦しさが漂い始めました。
 しかし、そんな重苦しい雰囲気を払拭したのも、我らがエースにして、不動の一番、逢坂さんでありました。最終回の攻撃を前に、気合いのかけ声をかけると、湿りがちだった打線がうそのように、息を吹き返します。二番・PHP兼田選手からはじまる好打順で迎えたミステリーズは、キングス三番手投手をすぐさま攻略。すべての塁を埋めて、六番上村選手を迎えます。大学日本代表のジャージ(本物)を羽織った上村選手が打席に入ると、ここでまたしても、逢坂さんの「ホームラン頼む!」と気合いの入ったかけ声が。初回からひとりでマウンドを守ってきた大エースの頑張りに答えない訳にはいきません。ワンボールワンストライクからの三球目、高めのストレートをしっかり引き付けて振り抜くと、ボールは左中間へ45度の角度にあがり、神宮外苑の空を真っ二つ。興奮したミステリーズベンチは総立ちで、三塁コーチでない人までが、まわれまわれと腕を回し、上村選手は悠々ホームイン。今試合、第一号ホームランが飛び出します。続く七番、私、新潮社内田も、棚ぼたのランニングホームランを放つと、さらに後続がランナーで出塁し、打順はついに一番逢坂さんへ回ります。前回の試合では、レフトフェンス直撃のヒットを放ちましたが、この日は、好守備にも阻まれ、初回に塁にでたきり、四打席安打がありません。
 しかし、長年野球、ソフトボールでチームを引っ張って来た逢坂さんが、このまま終わるはずがありません。ゆっくりとした足取りでバッターボックスに入ると、真ん中やや内よりのストレートを強振。打球は強烈なライナーでレフト前へと運ばれます。この一打にキングスナインは戦意喪失、試合の流れをグッと引き寄せ、勝敗を決定づけるものとなりました。その裏は、多少の守備の乱れもあり五点を取られましたが、終わってみれば、十七対十三の乱打戦を制して完勝。先発の逢坂選手は百球を超える見事な完投で勝利投手に輝きました。
 すこしの休憩を挟んで行われた第二試合では、最終回に講談社・佐藤選手のホームランで同点に追いつくと、さらに、ワンナウト一、二塁として、バッターボックスには小沢さんが入ります。ネクストバッターズサークルから熱い視線で逢坂選手が見守る中、振り抜いた打球は、ゴロ性のあたりで、見事、左翼手のはるか後方へ。二塁ランナーがゆっくりと戻り、ゲームセット。交流戦は見事ミステーズの二連勝で幕を閉じました。