日々是映画日和

日々是映画日和(127)――ミステリ映画時評

三橋曉

 奇祭がテーマの『ミッドサマー』のルーツともいわれる『ウィッカーマン』は、半世紀が経とうとしている今も、final cut 版の上映が話題になるほどの人気だが、やはりカルト映画の定番入り間違いなしなのが、現在公開中の『バクラウ 地図から消された村』だ。ブラジルの片田舎で繰り広げられる悪魔的な謀略を、バイオレンスと血しぶきたっぷりに描き、UFOまでが空を舞う怪作である。ウォーホルのカルトホラー出演が懐かしいウド・キアも活躍。ミステリ的なカタルシスもありますよ。

 さて、元々は秦建日子の小説で舞台にもなった「And so this is Xmas」が、『サイレント・トーキョー』として映画化された。
 イヴの人出で賑わう恵比寿に爆弾を仕掛けたとの犯行声明がTV局に届いた。駆けつけた局の契約社員(井之脇海)と、その場にいた主婦(石田ゆり子)に容疑がかかる中、犯人はさらにハチ公前の渋谷駅周辺の爆破をネットで予告する。生中継のテレビで首相との対談を要求するが、政府は「テロには屈しない」を繰り返し、取り合おうとしない。ごった返す夕方のハチ公前は警察の避難誘導を無視する人々で溢れ、やがて爆破の刻限がやってくる。
 恵比寿の事件現場をカフェから見下ろす佐藤浩市や、渋谷の雑踏を歩きスマホで撮影する中村倫也ら、謎めいた容疑者たちが行き交うフーダニットの興味と、爆破予告のタイムリミットが刻々と迫る緊張感がせめぎ合う。タイトルはジョン・レノンの曲の歌詞から採られており、それがテーマへの布石となっているが、真犯人の動機には危機的状況を安閑と眺めるだけのわれわれ日本人への警鐘も込められている。かかった費用が億単位と思しきスクランブル交差点のオープンセットでの撮影が効果をあげている。(★★★1/2)

 二〇一五年四月、ロンドン有数の宝石店街で起きた強盗事件は、イギリス人にとって衝撃的だったに違いない。約二十五億円に及ぶ被害額に加え、犯人が平均年齢六十歳超のロートル集団だったからだ。過去にマシュー・グード主演で『ハットンガーデン・ジョブ』という映画になり、全四話のドラマ『ハットンガーデンの金庫破り』も製作されたが、今度は『キング・オブ・シーヴズ』と題し再び映画化された。
 かつて泥棒王とまで呼ばれた元犯罪者のマイケル・ケイン。足を洗い余生を楽しんでいたが、愛妻に先立たれ魔がさしたか、謎の若者チャーリー・コックスの話に乗せられ、昔のワル仲間たちを招集する。しかし襲撃の当日、なぜか彼は仲間から抜けると言い出す。
 痛快なケイパー(強奪)ものを期待すると、やや肩透かしを食らう。監督のジェームズ・マーシュは『マン・オン・ワイヤー』でアカデミー賞のドキュメンタリー部門賞に輝いた人で、なるほど実録ものとしてもハイレベル。襲撃計画の微細と同等に、後半、老人たちの関係にひびが入っていく過程が実に濃やかに描かれる。ベテランの芸達者を揃えた老人窃盗団内の人間模様が見応え十分だ。※一月十五日公開予定(★★★)

 イランは、ミステリ映画の名匠アスガー・ファルハディの母国だが、次世代の台頭もあるようだ。ニマ・ジャウィディもその一人で、『ウォーデン 消えた死刑囚』は、刑務所を舞台にした人間消失ものである。
 イスラム革命前夜の刑務所では、空港建設のため移転作業が進められていた。栄転を告げられたばかりの所長だったが、移送先から囚人が一名が足りないとの報告に動転する。囚人は実は死刑囚で、噂を聞き妻子やソーシャルワーカーが駆けつけ、冤罪を訴えた。ついに重要な証人まで現れるが、所長は必死の捜索をやめようとしない。やがて刑務所明け渡しの時刻となり、解体作業が始まるが。
 大工仕事が得意な囚人の存在や、靴墨の差し入れがあったという情報、さらには謎めいたメッセージなど、ちりばめられた手がかりの数々は、ミステリ・ファンの稚気をくすぐるに十分。周囲が焦燥を募らせていく中、一向に死刑囚の所在が知れない緊迫感も時間の経過に正比例していく。その割にやや真相があっけないが、悲惨な自国の歴史をふり返るラストには、社会派の良心が光る。※一月一六日公開予定(★★★)

 原作は、第二十五回小説すばる新人賞を受賞した行成薫の同題小説。叙述のトリックを小説から映像のそれに移し替え、映画化されたのが、『名も無き世界のエンドロール』である。
 悪戯好きのマコトと心優しいキダ、転校生のヨッチは、境遇が似ていることもあり中学時代からの仲良し三人組だった。ゆえあって女子のヨッチは欠けたが、大人になった今も親友同士の男二人は、クリスマスイヴだというのに電話で笑い合っていた。その晩、マコトはさる社長令嬢に念願のプロポーズすることを決めていた。その作戦に一役買うため、キダはサンタクロースの姿で賑わう町中を歩いていたが。
 サプライズエンディングありきの作品と思いきや、十代の三人組を捉えたシーンなど瑞々しさが目を捕らえる。ただ惜しいのは、映像化にあたり、原作のやや作り物めいたところを払拭出来ていないことだろう。同じく岩田剛典出演の『去年の冬、きみと別れ』の細心さに及んでいないのが残念だ。※一月二十九日公開予定(★★1/2)

※★は最高が四つ、公開日記載なき作品は、すでに公開済みです。