近況

近況報告

権田萬治

 この二、三年、年賀状を会員の方から頂いても、返事も出せない状態が続き、不義理のしっぱなしでした。ごめんなさい。
 実は妻が要介護4の状態で、八十歳半ば同士の老老介護に追われていたためでした。最後の三百日まで悪銭苦闘を続けたのですが、ついに昨年末、共倒れの危険があるため、都内の介護施設に夫婦そろって入居しました。一時は歩くのもやっとだった私も元気になり、今では回想録を雑誌に連載できるようになり、フエイスブックで時々情報を発信して友人と交流できるまでになりました。
 そうなると欲が出て、昔書いた「孤独な男たちの肖像」というハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドの三人のハードボイルド作家についての評論を新資料で書き直したいと思うようになりました。
 そんな夢みたいなことを考えていたら、協会の四月の会報で、新入会員の大谷睦さんの入会挨拶に出会いました。
 何と、大谷さんはチャンドラーを師に仰ぎ、五十八歳で『クラウドの城』という長編で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞された方でした。
 生島治郎、小泉喜美子、大沢在昌などと同じく熱烈なチャンドラーファンがまだまだ健在だと、半ば化石状態の昔からのチャンドラー支持者である私は、大いに心強く感じた次第です。
 これからも〝本格と社会派ミステリーとハードボイルドの融合〟を目指して創作活動をされるようで、期待しています。
 ただ、大谷さんは会員の皆さんが余りチャンドラーのことを知らないと思っていらっしゃるようで、延々とチャンドラーの生涯などについても語られてますが、そんなことはないと思いますよ。ですから、ご自分のことをもっと詳しく語って頂きたかった気がします。
 それはともかく、私も早速、書棚から、Library of Americaのチャンドラー作品集二冊、全短編を収録したEveryman's LibraryのCollected Stories、さらにOwen Hill,Pamela Jackson,Anthony Dean Rizzutoの注釈・編集によるThe Annoted Big Sleep(Vintage Books)を取り出して双葉十三郞と村上春樹訳の『大いなる眠り』を原典と対照しながら読むことにしました。 注釈付きの『大いなる眠り』はとても参考になるし、面白いんで、翻訳もなさる大谷さんにもお勧めの一冊です。