江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞贈呈式開催
十一月七日(月)午後六時より、日本推理作家協会主催による第六十八回江戸川乱歩賞および第七十五回日本推理作家協会賞贈呈式が、池袋の豊島区立芸術文化劇場にて開催された(乱歩賞は、株式会社講談社・株式会社フジテレビジョンの後援、豊島区の協力)。
フリーアナウンサー笠井信輔氏の司会により、両賞の受賞者と選考委員が紹介された後に、京極夏彦氏制作による当協会および江戸川乱歩賞を紹介するVTRが上映された。
開幕の挨拶に立った京極夏彦代表理事は、「国内外で不安がいや増す一年だったが、その状況下でも素晴らしい作品を生みだしてくれた受賞者の方々に礼を言いたい」と語った。
続いて、豊島区副区長・高際みゆき氏、株式会社講談社代表取締役社長・野間省伸氏、株式会社フジテレビジョン取締役・矢延隆生氏がそれぞれ祝辞を述べた。
江戸川乱歩賞の贈呈式に移り、京極代表理事より受賞者の荒木あかね氏に正賞の江戸川乱歩像と副賞五百万円の目録が贈られた。
選考委員を代表して月村了衛氏が「最終選考に残った作品は予想以上にハイレベルだった。しかし荒木作品がずば抜けていた。完成度が高く、作者のポテンシャルを感じさせる作品だった。ベテランだと思っていたが、選考後に最年少だと聞いて驚いた。特殊設定ものでありながら、そこに依存せず、小説として優れていた。文句なしの受賞作だ」と選評を述べた。
受賞者挨拶で荒木あかね氏は「中学三年生でミステリー作家を志してから乱歩賞は憧れだった。八月に刊行された自分の本が近所の書店に並んだのを見て、夢が叶ったと実感した。編集者や書店員、読者の方々にお力をいただき、これまで以上に執筆活動に取り組んでいきたい」と喜びを語った。
次いで日本推理作家賞の贈呈式に移り、京極夏彦代表理事より、長編および連作短編集部門の芦辺拓氏、短編部門の逸木裕氏と大山誠一郎氏、評論・研究部門の小森収氏に、それぞれ正賞の時計と副賞の五十万円が贈られた。
長編および連作短編集部門の選考委員を代表して柚月裕子氏は、「もっとも票を集めたのが芦辺作品だった。その時代ならではの社会的な問題を盛り込み、入り組んだ物語を作りながら、さまざまな謎とともに、たたみかけるようにすべてがまとまって終わる。一番納得してうなった作品だった」と選評した。
続いて短編部門と評論・研究部門の選考委員を代表して薬丸岳氏は、「始めの投票で受賞した二作に票が割れた。ミステリーでありながら小説としての味わいや読みごたえがある逸木作品、トリックに特化し、本格の中でも難しい題材に果敢に挑んだ大山作品。タイプのまったく違う作品であり、議論が続いたが、どちらも優れているという結論で二作受賞が決まった。一方の評論・研究部門は対照的に最初の投票で全員が最高点を付け、決定した。他の作品も議論し、同時受賞の可能性を探ったが、小森作品の熱量にかなうものはなかった」と述べた。
受賞者挨拶に立った長編および連作短編集部門の芦辺拓氏は「目標でありながら最も遠くに思っていた賞だった。十六歳で本格ミステリーに目覚めて以来、ひたすらこのジャンルに小説の面白さを求めてきた。尊敬する鮎川哲也の名を冠した賞で三十二歳の時デビューし、その倍の年齢で協会賞受賞という夢が叶うとは思わなかった。昔の大阪についてのネタ元だった母が亡くなってからは、生れ故郷といいながら大阪は遠い存在になってしまっていた。その過去の大阪を幾分かでも再現できたとしたら、それは母に代わっていろいろ教えていただいた橋爪紳也先生に負うところが大きい。今後も十六歳で出会った探偵小説を、三十二歳、六十四歳という節目で追ってきたのと同様に、これからも書き続けていくことをお約束します」
短編部門の逸木裕氏は「この作品は担当だったKADOKAWAの榊原大祐さんに負うところが大きい。依頼を受けてある企画を出したら没を喰らった。そのころは不調だった時期で落ち込んだが、信頼できる相手だったので、もう一度頑張ろうと考えて書いたのがこの作品だった。その結果、今私がここにいます。でもその榊原さんはこの作品が掲載される直前に急逝された。彼は以前に筑摩書房で純文学を担当していたこともあり、純文学とエンターテインメントの両方の側面から作品を読める優れた編集者だった。デビュー間もないころからお世話になり、同志と思っていた編集者だった。この場に立っているのは彼のおかげだ。これからも面白い作品を書いていきたい」
大山誠一郎氏は「本作品はとりわけ先行作品を意識している。鮎川哲也のアリバイ崩しの一連の作品と、連城三紀彦の短編「夜の二乗」だ。アリバイ崩しは単調になりがちだが、鮎川作品は魔法のように鮮やかで、時計のように精密で深く心を動かせられた。連城作品は夫が妻と愛人を同時刻に手を掛けるというおよそ不可能な内容だった。鮎川作品のようなアリバイ崩しをしたい、深く感銘を受けた連城作品の同じ謎を違う形で解決したいと考えたのがきっかけだった。この二人を意識した作品で受賞できたのは嬉しい。お二人は本賞を受賞した後、ますます輝かしい作品を書いている。私もそれに続いていきたい」とそれぞれ喜びを語った。
最後に挨拶した小森収氏は、乱歩賞の荒木氏を含む、四人の作品に対する寸評を語る異例の挨拶となった。「荒木作品に感心したのは冒険に当たって大胆にやるところと、確実にやるところの区別がついている点だ。初陣の作とは思えない。中学三年生からといっても、十年間アマチュアを続けたというのは大変なことで、この成果は当然ことだ。芝居では台詞が立つという言葉がある。芦辺作品において、ある人物が発するある台詞が、重要なトリック、犯人の重要な個性、船場という世界の重要な部分を、簡潔に表し、かつ読者の頭に残るものになっていた。これは生半可のことではない。逸木作品はチャレンジ精神のすばらしさを讃えたい。このアイデアはフランスの有名な長編小説に前例があるが。それにもかかわらず果敢に踏み込んでいく。こういう精神なくして、これからの二百年はない。大山作品に一番に感じたことは批評のシャープなことだ。アリバイ破りは警察の見込み捜査と紙一重の危険性をはらんでいる。それを逆手にとって、非常にシャープな批判を含んだ作品にしている。このような素晴らしい作品と並んで、私の作品も受賞できたことを光栄に思っている」
なお江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞とも、司会の笠井氏の要請により、壇上にいる他の選考委員もコメントを発する機会があった。
この後、荒木あかね氏が中学三年生でミステリーを書こうとしたきっかけになった小説の作者、有栖川有栖氏がサプライズゲストとして登壇し、荒木氏に花束を贈呈し、荒木氏が感涙にむせぶ一幕があった。
受賞者と選考委員の写真撮影に続いて、京極夏彦代表理事による閉会の挨拶があり、約二時間にわたる江戸川乱歩賞,日本推理作家協会賞贈呈式は幕を閉じた.
会場には五百名を超す参加者が集まり、静かな熱気に包まれた贈呈式となった。この模様はライブ配信も実施され,現在もYouTubeで視聴することができる。
https://youtu.be/SuvJvj0wZdI
フリーアナウンサー笠井信輔氏の司会により、両賞の受賞者と選考委員が紹介された後に、京極夏彦氏制作による当協会および江戸川乱歩賞を紹介するVTRが上映された。
開幕の挨拶に立った京極夏彦代表理事は、「国内外で不安がいや増す一年だったが、その状況下でも素晴らしい作品を生みだしてくれた受賞者の方々に礼を言いたい」と語った。
続いて、豊島区副区長・高際みゆき氏、株式会社講談社代表取締役社長・野間省伸氏、株式会社フジテレビジョン取締役・矢延隆生氏がそれぞれ祝辞を述べた。
江戸川乱歩賞の贈呈式に移り、京極代表理事より受賞者の荒木あかね氏に正賞の江戸川乱歩像と副賞五百万円の目録が贈られた。
選考委員を代表して月村了衛氏が「最終選考に残った作品は予想以上にハイレベルだった。しかし荒木作品がずば抜けていた。完成度が高く、作者のポテンシャルを感じさせる作品だった。ベテランだと思っていたが、選考後に最年少だと聞いて驚いた。特殊設定ものでありながら、そこに依存せず、小説として優れていた。文句なしの受賞作だ」と選評を述べた。
受賞者挨拶で荒木あかね氏は「中学三年生でミステリー作家を志してから乱歩賞は憧れだった。八月に刊行された自分の本が近所の書店に並んだのを見て、夢が叶ったと実感した。編集者や書店員、読者の方々にお力をいただき、これまで以上に執筆活動に取り組んでいきたい」と喜びを語った。
次いで日本推理作家賞の贈呈式に移り、京極夏彦代表理事より、長編および連作短編集部門の芦辺拓氏、短編部門の逸木裕氏と大山誠一郎氏、評論・研究部門の小森収氏に、それぞれ正賞の時計と副賞の五十万円が贈られた。
長編および連作短編集部門の選考委員を代表して柚月裕子氏は、「もっとも票を集めたのが芦辺作品だった。その時代ならではの社会的な問題を盛り込み、入り組んだ物語を作りながら、さまざまな謎とともに、たたみかけるようにすべてがまとまって終わる。一番納得してうなった作品だった」と選評した。
続いて短編部門と評論・研究部門の選考委員を代表して薬丸岳氏は、「始めの投票で受賞した二作に票が割れた。ミステリーでありながら小説としての味わいや読みごたえがある逸木作品、トリックに特化し、本格の中でも難しい題材に果敢に挑んだ大山作品。タイプのまったく違う作品であり、議論が続いたが、どちらも優れているという結論で二作受賞が決まった。一方の評論・研究部門は対照的に最初の投票で全員が最高点を付け、決定した。他の作品も議論し、同時受賞の可能性を探ったが、小森作品の熱量にかなうものはなかった」と述べた。
受賞者挨拶に立った長編および連作短編集部門の芦辺拓氏は「目標でありながら最も遠くに思っていた賞だった。十六歳で本格ミステリーに目覚めて以来、ひたすらこのジャンルに小説の面白さを求めてきた。尊敬する鮎川哲也の名を冠した賞で三十二歳の時デビューし、その倍の年齢で協会賞受賞という夢が叶うとは思わなかった。昔の大阪についてのネタ元だった母が亡くなってからは、生れ故郷といいながら大阪は遠い存在になってしまっていた。その過去の大阪を幾分かでも再現できたとしたら、それは母に代わっていろいろ教えていただいた橋爪紳也先生に負うところが大きい。今後も十六歳で出会った探偵小説を、三十二歳、六十四歳という節目で追ってきたのと同様に、これからも書き続けていくことをお約束します」
短編部門の逸木裕氏は「この作品は担当だったKADOKAWAの榊原大祐さんに負うところが大きい。依頼を受けてある企画を出したら没を喰らった。そのころは不調だった時期で落ち込んだが、信頼できる相手だったので、もう一度頑張ろうと考えて書いたのがこの作品だった。その結果、今私がここにいます。でもその榊原さんはこの作品が掲載される直前に急逝された。彼は以前に筑摩書房で純文学を担当していたこともあり、純文学とエンターテインメントの両方の側面から作品を読める優れた編集者だった。デビュー間もないころからお世話になり、同志と思っていた編集者だった。この場に立っているのは彼のおかげだ。これからも面白い作品を書いていきたい」
大山誠一郎氏は「本作品はとりわけ先行作品を意識している。鮎川哲也のアリバイ崩しの一連の作品と、連城三紀彦の短編「夜の二乗」だ。アリバイ崩しは単調になりがちだが、鮎川作品は魔法のように鮮やかで、時計のように精密で深く心を動かせられた。連城作品は夫が妻と愛人を同時刻に手を掛けるというおよそ不可能な内容だった。鮎川作品のようなアリバイ崩しをしたい、深く感銘を受けた連城作品の同じ謎を違う形で解決したいと考えたのがきっかけだった。この二人を意識した作品で受賞できたのは嬉しい。お二人は本賞を受賞した後、ますます輝かしい作品を書いている。私もそれに続いていきたい」とそれぞれ喜びを語った。
最後に挨拶した小森収氏は、乱歩賞の荒木氏を含む、四人の作品に対する寸評を語る異例の挨拶となった。「荒木作品に感心したのは冒険に当たって大胆にやるところと、確実にやるところの区別がついている点だ。初陣の作とは思えない。中学三年生からといっても、十年間アマチュアを続けたというのは大変なことで、この成果は当然ことだ。芝居では台詞が立つという言葉がある。芦辺作品において、ある人物が発するある台詞が、重要なトリック、犯人の重要な個性、船場という世界の重要な部分を、簡潔に表し、かつ読者の頭に残るものになっていた。これは生半可のことではない。逸木作品はチャレンジ精神のすばらしさを讃えたい。このアイデアはフランスの有名な長編小説に前例があるが。それにもかかわらず果敢に踏み込んでいく。こういう精神なくして、これからの二百年はない。大山作品に一番に感じたことは批評のシャープなことだ。アリバイ破りは警察の見込み捜査と紙一重の危険性をはらんでいる。それを逆手にとって、非常にシャープな批判を含んだ作品にしている。このような素晴らしい作品と並んで、私の作品も受賞できたことを光栄に思っている」
なお江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞とも、司会の笠井氏の要請により、壇上にいる他の選考委員もコメントを発する機会があった。
この後、荒木あかね氏が中学三年生でミステリーを書こうとしたきっかけになった小説の作者、有栖川有栖氏がサプライズゲストとして登壇し、荒木氏に花束を贈呈し、荒木氏が感涙にむせぶ一幕があった。
受賞者と選考委員の写真撮影に続いて、京極夏彦代表理事による閉会の挨拶があり、約二時間にわたる江戸川乱歩賞,日本推理作家協会賞贈呈式は幕を閉じた.
会場には五百名を超す参加者が集まり、静かな熱気に包まれた贈呈式となった。この模様はライブ配信も実施され,現在もYouTubeで視聴することができる。
https://youtu.be/SuvJvj0wZdI