ラスボスの高笑い
推協の麻雀大会にはおそらく二十回以上参加しているが、上位入賞すらほとんどなかった。記憶ではベストテンに入ったのが一度あるだけだ。
それが七十歳を目前にした今回、優勝してしまった。幹事の井沢元彦さんが憤懣やるかたない口調で、
「若い者は何をやっとるんだ?!」
と叫んだのも理解できる。
私なりに勝因を分析すると、みっつ思い当たる。
ひとつ目は、推協の雀聖、権田萬治さんが今回は体調不良で参加されなかったこと。何度も優勝され、数えきれないほど上位入賞を果たされている権田さんが参加されていたら、まちがいなく私の優勝はかなわなかった。
来年お会いできるのを楽しみにしています。
ふたつ目は、第一回戦で、弁護士にしてプロ雀士でもある新川帆立さんと当たったことである。当日まで面識はなかったが、彗星のごとく業界に現われた才媛はどんな方だろうと、私も興味津々だった。
若干遅れぎみに会場に到着した新川さんは、一回戦のメンバーに私がいるのを知って困惑されたようだ。
「わたし、大沢さんを倒すために、エントリーしたんです。でもいきなりあたるなんて、予想してなかった」
目をキラキラさせておっしゃった。こんな才媛にならいくらでも倒されてあげると思いながらも、勝負は勝負。対局がスタートしたが、やはり動揺が尾をひいたのか、新川さんは波にのりきれず、私がトップとなった。
対局中、印象に残ったのが、危険牌を切るときの新川さんの愛らしい仕草である。横を向き、目をつぶってさしだす。心優しい私は、とてもロンとはいえず、何度も見逃した(嘘)。
だがそれを見習って、私も第二戦、第三戦、第四戦と、危険牌を切るときに横を向いてさしだすと、なぜかこれが当たらないのである。
新川さん、ありがとう。あなたのおかげで優勝できました。新川さんの話を聞いて、同じ「このミステリーがすごい!」大賞の先輩、柚月裕子さんが、
「東大出身で弁護士の資格までもってるような人が、小説にまで手をのばさないでほしいです、プンプン」
といっていたが、ゴルフで会ったときにでも、
「とてもいい子だから、かわいがってあげるように」
と伝えておきます。
みっつ目は、麻雀牌に触れるのがほぼ二年ぶりで、ツキが貯まっていたことである。
かつて私の青春は、麻雀荘とディスコにあった。週に一度は徹マンし、二度は六本木、赤坂のディスコにくりだしたおかげで、みごとに大学をクビになった挙げ句が、現在である。
それほどやったせいかもしれないが、近年はまるで麻雀をやりたいとは思わなくなっている。昨年の麻雀大会は、風邪気味だったので直前に参加を見合わせた。とたんに、「ついに死んだか」「生きてます?」という嬉しげな問い合わせが、各社担当から相次いだ。
したがって麻雀を打つのは、一昨年の大会以来だったのだ。
トップ、二着、トップ、トップの四戦で、優勝を果たせたのは、ツキ以外の何ものでもない。今年の運を使い果たしたろうという声もあるが、それには耳を塞いでおく。
終了後、大会会場と同じ銀座にある、いきつけのバーに足を運び、勝利の美酒に酔った。
そこには会員の北方謙三さんや道尾秀介さんもやってくる。
イタリア家具で統一されたシックな店内にはまるでそぐわない優勝トロフィーを飾ることを強要し、お二人がきたら見せびらかすように、といいおいて帰途についた。
関係者の皆さん、ありがとうございました。