囲碁

棋戦優勝記

赤井三尋

 3月21日の春分の日は、3月下旬にしてはかなり冷え込んだ一日だった。
 市ヶ谷の日本棋院は、小学生の大会でも開催されるのか、朝から児童やその父兄たちでごった返していた。
 推理作家協会囲碁クラブの大会には、何年か前に一度だけ優勝したことがある。
 その優勝で、二段から三段に昇段したのだが、最近になって、もうそろそろ四段になってもいい頃ではないだろうかと、傲慢にも心ひそかに考えるようになり始めていた。
 つまり、ぼくは今回の大会に期するものがあったのである。
 大会はトーナメント戦で、優勝するまでに四連勝しなければならない。
 あみだくじで決まった初戦の相手は秋津京子さんである。だが、手合い割りがわからない。結局、まだ初心者ということで、相手に9子置いてもらうことになった。パッと見た目、盤上黒石だらけである。秋津さんは「わたしは十何級ですから……」と謙遜されていたが、とんでもない。石の運びも的確で、中盤までとても勝てる気がしなかった。それでも何とか頑張って、二か所の大石を仕留め勝つことができた。
 二回戦の相手は郷原宏さんだった。
 六段の強豪で、ぼくが3子置いての対戦となる。中盤にさしかかった時点で失敗して、白の大石を仕留めないと勝てない形勢に陥ってしまった。相手は六段、こりゃダメだな……と諦めながらも打ち進めていくと、驚いたことに白石が死んでしまったのである。奇跡が起こったと、歓喜したその瞬間、今度はこちらの黒石がごそっと取られてしまった。頭の中が真っ白になったが、もう終盤に突入していたので最後まで打ってみると、幸運なことに数目勝っていた。
 準決勝は山本濱賜さん。何度も打ったことがあるが、あまり勝った記憶がない。しかも山本さんは八段の強豪、竹本健治さんを破っての準決勝進出なのである。
 ところが、竹本戦で力を使い果たしたのか、序盤で山本さんに作戦ミスがあり、その後紆余曲折はあったものの、何とか寄り切り勝ちをおさめることができた。
 そしていよいよ決勝戦である。
 相手は手嶋政明さん。新井素子さんの旦那さんである。手堅い棋風で細かい碁(接戦)になる予感はあったが、その通りの展開になった。お互いに細碁になっていると分かっているので、緊迫した雰囲気で終盤に流れ込んだ。結局、4目余して念願の優勝となった。そして、晴れて四段となった。
 その二日後、今度は月例会があり、竹本八段に四段の手合いで打ってもらった。非常によく打てた碁で、数目の勝ちとなった。
 そう、ぼくは誰にも文句を言われることのない、正真正銘の四段なのである、と思いたい。