土曜サロン

劇団フーダニット「みかんの部屋」 土曜サロン 平成30年4月14日

 四月十四日の「土曜サロン」は、いつものように表参道でお話を……ではなく、まずは観劇から。ミステリ演劇を上演しつづけて来年には結成二十周年を迎える〈劇団フーダニット〉の公演「みかんの部屋」(作/ロベール・トマ、訳/米村あきら、演出・構成/松坂晴恵)を見に、参加者は江戸川区のタワーホール船堀に集合しました。トマといえば「罠」をはじめとするトリッキーな戯曲で知られ、この劇団も彼の作品をこれまでも折々に上演しています。
 この作は六話構成のオムニバスながら、やはり一話ごとに仕掛けの光る、トマらしい戯曲。タイトルは、部屋ごとに果物の名がつけてある、パリの小さなホテルの、ある部屋の名です。その部屋のお客は予約順に、妻に逃げられた男、高飛びを控えたギャング、パリに観劇にきたのに知り合いにつきまとわれる田舎の夫婦、莫大な遺産を相続した女、殺人罪の刑期を終えたばかりの女、司祭と娼婦。さまざまというだけでは済みそうにない面々です。それぞれ秘密やたくらみを持っていたり、事件を起こしたり、巻き込まれたり。喜劇も悲劇も、恐怖劇もハードボイルドもあります。どの一幕にも仕掛けがあり、結末を見るまではどう 落ち着くかわかりません。油断のできない短い物語を、客室係と新人のメイドのかけあいがつないでいく、洒脱な連作演劇でした。
 観劇後は、同劇団の広報宣伝部長である松坂健さんを囲んで、ビアホールでジョッキを片手にしての土曜サロン。「ミステリ劇が見たいが上演する劇団がない」「ならば自分たちで作ってみよう」という晴恵夫人との会話からはじまったという設立のエピソードから、観客に人間関係をわかってもらうまでに時間のかかる本格ミステリ演劇の難しさ、若竹七海さんや辻真先さんに戯曲を書いてもらうまで のいきさつ、ロシアの演出家との出会いを通して知った演劇メソッドなど、興味のつきないお話が続々と。これからの公演予定や、二十周年記念の演目などのお話もうかがえました。
 ミステリ演劇には、映画やドラマを見るのとも、小説や戯曲を読むのとも違う、独特の楽しみがあります。ミステリ演劇をまだ御覧になったことのない皆様、今回御覧になれなかった皆様、ぜひ次回の公演を。
(植草昌実)