近況報告

大谷睦

 先号の会報で、権田萬治先生にご指摘を受けました。
「大谷さんは(中略)ご自分のことをもっと詳しく語って頂きたかった気がします」
 申し訳ありません。汗顔の至りです。
 改めて、自己紹介を。私は東京生まれ、冴えない人生を生きてきました。
 五十を過ぎ、有限の時間に思い至りました。人間五十年、残りはオマケです。ならば、夢だった小説を物して、生きた証を残そう。
 若桜木虔先生の小説講座に入門し、求められるまま、人生初のプロットを送りました。すぐ返信が来ました。
「受賞できません」(実話)
 最初は理解できませんでした。少し経って「論評に値せず」「論外」の意味と悟りました。
 カチンときました。身も蓋もありません。もっと優しく教えてほしい。他方で、妙に納得している自分もいました。でも、悔しい。
 アンビバレントな感情に揺さぶられるまま、創作にのめり込んでゆきました。
 断続的に八年、若桜木先生の教えを受けました。その間、新人賞の候補に二回、入りました。でも、夢は叶いませんでした。
 二〇二〇年、コロナ禍。講座は閉鎖され、私は『クラウドの城』の執筆を続けました。
 書き続けているうちに、不思議な感慨が湧いてきました。
 私は明日をも知れぬ身で、世に出るか分からぬ小説を書いている。
 私は今、嵐に書いている。だから書く。書き続ける。受賞は問題ではない。「私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ」(太宰治『走れメロス』)
 意図的に、作品を壮大に、文明論にまで広げました。
 同作は二〇二一年十月、第二十五回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しました。
 翌二〇二二年二月、選考委員・有栖川有栖先生らのご指導の下、光文社から上梓しました。
 さらに七月二十九日発売の隔月刊電子雑誌「ジャーロ No.83」(光文社)に、受賞第一作短編『この世界、罪と罰』を西川真以子さんの挿絵で掲載いたしております。
 函館を舞台に、ドラッグと若者たちを描いたドリル小説(下層階級の絶望を描いたノワール)です。神がつくり出した人間と、人間がつくり出した罪、人が人を罰する意味を問うています。
 今後とも残りの命、オマケの人生を執筆に傾け、少しでも多くの作品を生み出してゆく覚悟です。