第十一回 異世界設定作品
小説等の原作のないミステリ演劇は、異世界設定の作品が多い印象を受ける。たまたま連続して観ただけなのかもしれないが、役者も観客も若者が目立ち、観劇からミステリの世界に深く入ってくる可能性があることを想起させられる。
E-Stage Topiaプロデュース『将棋図巧・煙詰―そして誰もいなくなった2023―』(二〇二三年四月七日~一六日/上野ストアハウス)は、二〇二一年に上演された内容を大幅にリニューアルして再演された。煙詰とは、全ての駒を盤上に配置して、必要最低限の枚数で詰め上がる詰将棋を指す。物語は駒を擬人化させ、主人公である王将が、過去に自分をいじめた同級生たちを孤島のホテルに呼び集め、一人ずつ殺していくという内容だ。舞台の床も将棋盤に見立てられ、臨場感が半端ない。詰将棋を知っている者ならば、二倍に楽しめるだろう。脚本・演出を手掛けた劇作家の太田守信は、今作を含む詰将棋をモチーフにした作品を三作上演している。
声優の浪川大輔が率いる新感覚朗読劇プロジェクト「READING MUSEUM」第七弾『デッドロックド・Dランカーズ~百万探偵都市の最後のヨスガ~』(二〇二三年五月六日~七日/日本教育会館 一ツ橋ホール)は、住民全員が探偵という街が登場するシリーズものだ。途中で選択肢が挟まれ、観客たちの投票によって物語の流れが決まる。今作は、主要キャラクターたちが公衆トイレに閉じ込められたところから開始し、分岐によって被害者も変わっていく。探偵シゲムラ三部作の最終作で、ハイテンションで見応えがあり、ノーパンとウォシュレットが鍵となる毒殺トリックには仰天した。
空想嬉劇団イナヅマコネコによる『ソリチュードタウンの死神』(二〇二三年五月二十日~二八日/シアターグリーン)は、何度も再演されている人気作である。霧に囲まれた出入りの手段が分からない街が舞台で、迷い込んで記憶をなくした主人公が秘密を探っていく。世界観と人間関係を把握するまで若干時間がかかったが、クライマックスに進むにつれて物語に引き込まれ、感極まる観客も少なくなかった。伏線もさることながら、無償の愛の美しさに感動を覚えるだろう。
展開の意外性、トリック、伏線の貼り方など、それぞれの世界に見事に合った作品ばかりで、舞台でしか味わえない面白さも一興である。