ミステリ演劇鑑賞録

第十二回 結末の異なるミステリ演劇

千澤のり子

 先月紹介した新感覚朗読劇プロジェクト「READING MUSEUM」第七弾『デッドロックド・D ランカーズ~百万探偵都市の最後のヨスガ~』は、観客の投票で物語の進行が変わるゲームブック方式の朗読劇だった。流れは多数決によって決まるが、すべての選択肢の内容を上演できたそうだ。
 三越創業三五〇周年企画『三越劇場 怪事件推理~幻の着物と三つの思惑~』(二〇二三年五月二六日~二八日/三越劇場)は、イーピン企画が企画・製作した演劇×参加型ミステリーで、【花】【風】【月】の、三つの事件ケースが上演された。
 事件は、令和五年五月に三越劇場で開催される「幻の着物プレイバック」というイベントで、ショーモデルが殺害されるという内容だ。三つの事件とも世界観や人物像は共通していて、被害者も同じ人物、殺害現場も演劇の舞台でもある三越劇場内となっている。各事件とも問題編と解決編があり、参加者は休憩時間中に犯人と決め手となる材料を推理し、解答用紙に記入して提出する。
 殺害方法は事件によってまったく異なるので、同じ手がかりが用いられているとは限らない。犯人にしかできない行動や証言が必ず劇中に潜んでいるが、役者たちの演技に夢中になると見落としてしまう。解決編の後、三種三様のサービス謎解きがあり、結末も異なる。一本でも楽しめるが、二本、三本観たら満足度がその都度数倍上がる、まさに、舞台の製作者たちと観客の勝負といえる本格ミステリ演劇だ。
 原作付きでは、結末が異なるミステリ演劇として、アガサ・クリスティ作品が挙げられる。舞台版『そして誰もいなくなった』は何度も再演されているので広く知られてきているが、今年度G―フォレスタ主催で上演された『Muder on the Nile~ナイル河上の殺人~』(二〇二三年六月二四日~二五日/新開地アートひろば)も、小説版や映画版とは犯人も結末も異なっている。
 クリスティ自身が書き直した戯曲版が元となっていて、エルキュール・ポアロは登場せず、人間ドラマに焦点を当てている。物語は船上のサロンのみで展開していくため、犯人を絞り込む決め手となる場面は分かりやすいが、どの人物が何をしていたのかまでは記憶に残りにくい。演じられた出来事とはいえ、目の前で事件が起きると、人の心は動揺するのだろうか。役者たちの演技に圧倒され、推理が二の次になってしまった舞台の一つであった。