ミステリ演劇鑑賞録

第十三回 最近の国内シリーズ作品

千澤のり子

 日本三大名探偵の一人である神津恭介のシリーズ作が、ノサカラボにより初舞台化された。原作は高木彬光『呪縛の家』(二〇二三年八月二十六日~九月三日/サンシャイン劇場、九月十六日~十七日/キャナルシティ劇場、九月二十一日~九月二十四日/サンケイホールブリーゼ)、演出・構成は野坂実、脚本は須貝英が担当している。
 旧友から「神津恭介と一緒に来てほしい」と手紙をもらった松下研三は、一足先に八坂村を訪れた。村は新興宗教・紅霊教が支配していて、元門弟らしき怪しげな男が殺人事件の予言を告げてくる。その日の夜に教祖の孫娘の一人が風呂場で殺害され、事件は連続殺人に発展していった。
 神津はジャニーズJr.の林一敬、松下は濱田龍臣が演じ、探偵の推理中に助手が別の動きをしていることで、シリアスな空気とコミカルな空気をうまく絡み合わせている。風呂場の密室トリックの解明場面では黒子を使って笑いを誘うなどして、殺人事件の陰惨さよりも謎解きの面白さを押し出しているように見えた。客席の周囲は初の神津恭介作品に触れる様子の者が多く感じられ、真犯人に驚く声も漏れ聞こえてきた。次作が待ち遠しい作品である。
 新型コロナウィルス感染防止のため延期となっていたTeam337『3つの符号―猫探偵正太郎シリーズより―』(二〇二三年七月十四日~十六日/スタジオACT、七月二十四日~二十六日/赤坂レッドシアター)が、ようやく上演された。原作は、柴田よしき『猫は聖夜に推理する -猫探偵正太郎の冒険2』である。
 小説家の桜川ひとみは、ひょんなことから同じマンションに住む老人が行方不明になっていることを知った。顔も知らない老人を探す方法はいったいなんだろうと考えているうちに、怪しげな人物が近所をうろついていたという噂を聞く。「犯人と事件には一致する符号がある」というが、果たしてその符号とは。
 原作とは異なり人間視点だけで構成されているが、役者たちのドタバタとした掛け合いが巧みで、誰もが見ても楽しめる作品に仕上がっていた。理由は分かっていたが、壇上にいるピザ屋役の俳優とずっと目が合っていたのが印象に強く残っている。再演の機会には、ぜひアロハシャツと短パンで観劇してほしい。