新入会員紹介

入会のごあいさつ

山本弘

 はじめまして。このたび日本推理作家協会に入会させていただいた山本弘です。これまで主にSFとファンタジーを書いてきました。
 小説を書くようになったのは、小学校高学年、一九六〇年代の後半からです。よく大学ノートにお話を書いていました。時代はまさに第一期怪獣ブーム。僕も怪獣が大好きだったもので、怪獣が出てくる話を何作か書いたと記憶しています。今とあんまり変わりませんね(笑)。
 父がよく中間小説誌を買ってきては家に置きっぱなしにしていたもので、そこに載っていた大人向けの小説を読み漁っていました。山田風太郎さんや梶山季之さんの小説、それもエロいシーンのあるやつを、小学五年ぐらいでごく普通に読んでいましたが、両親には何も言われませんでした。その点では、いい家庭環境でしたね。
 当時からSFが好きだったので、小松左京さん、筒井康隆さん、星新一さんなどの作品は、目次で見つけると必ず読みました。佐野洋さんや戸川昌子さんなどの短編ミステリも、かなり読んでいたはずです。
 一方、ビジネス小説や恋愛小説や風俗小説など、現実からの飛躍が少ない話には惹かれませんでした。子供時代の僕にとって、小説とは刺激的なもの、びっくりさせてくれるものでなくてはならなかったのです。それはある意味、今でも変わりません。
 一九歳の時、辻真先さんの『仮題・中学殺人事件』〔ソノラマ文庫〕に出会い、衝撃を受けました。想像してみてください。「メタ・ミステリ」なんて言葉もなかった時代に、あんな仕掛けのある話を読まされたんですよ? 「こんなことやっていいんだ!?」と大興奮したものでした。
 辻さんの〈スーパー&ポテト〉のシリーズは、どれも面白い仕掛けがあってお気に入りです。SFヒーロー番組の撮影中にSF的な事件が連発する『SFドラマ殺人事件』、アニメ界を舞台にした『TVアニメ殺人事件』、自主制作特撮映画をめぐって殺人が起きる『宇宙戦艦富嶽殺人事件』など、あの時代にマニアックな題材を積極的に取り入れていた先進性に、当時の僕は親近感を覚えたものです。最新作『戯作・誕生殺人事件』も懐かしい気持ちで読ませていただきました。
 作家デビューしてからは、主にSFとファンタジーを書いてきました。しかし、「ミステリを書いてみたい」とずっと思っていました。ただし、どうせなら普通のミステリじゃなく、思いきり変わったミステリ――読者に「いかにも山本弘らしい」と言ってもらえる作品ではないといけないと思っていました。
 まったく書かなかったわけじゃありません。ファンタジー小説〈ソード・ワールド〉のシリーズ〔富士見ファンタジア文庫〕では、「死者は弁明せず」「ゴーレムは証言せず」という二本のミステリ短編を書いています。嘘を看破する「センス・ライ」という魔法が存在する世界が舞台。嘘をついてもすぐバレる状況で、どうやって犯人は探偵役の尋問を切り抜けたのか? これは自分ではけっこう気に入っている話です。他にも未来の月面基地を舞台にした「七歩跳んだ男」というSFミステリも書いています(『アリスへの決別』〔早川書房〕に収録)。
 先日、現代日本を舞台にした初のミステリを上梓しました『僕の光輝く世界』〔講談社〕。アントン症候群という特殊な障害(いちおう実在します)を持つ少年を主人公に、現実と仮想現実が交錯する、ものすごく僕好みの小説です。
 設定こそまったく違うものの、〈スーパー&ポテト〉シリーズの影響が色濃いです。特に第四話「幽霊はわらベ歌をささやく」は、小説内小説という設定もそうですが、クライマックスの謎解きは、『盗作・高校殺人事件』の中の薩次の台詞がヒントになっています。
 SFにせよミステリにせよ、僕が若い頃に読んで感じた興奮を、今の若い読者に伝えたい――そう願って小説を書いています。