入会のご挨拶
このたび日本推理作家協会の末席に加えていただくこととなりました、ミコタにうと申します。会員のみなさまにはどうぞよろしくお願い申し上げます。
また、私の入会にさいしてご推薦くださいました佐藤青南先生とかみはら先生にお礼申し上げます。本当にありがとうございます。
私はいわゆるWEB投稿サイト出身作家です。実績もなければ文学賞などの受賞歴もない、まったくの野良作家です。投稿作品を読んでくださった出版社さんから直接お声がけいただき、デビューさせていただきました。そのデビューから2年数か月、たいへんありがたいことに専業作家としてなんとか続けさせていただいています。
実は私は、結構な高齢デビューなのです。自分でも、まさかこの歳でデビューできるとは思っていませんでした。それも素人投稿サイトからのデビューですから、なんというかすごい時代になったなあと、自分でもしみじみしてしまいますね。
それでも自分としては、デビューのタイミングはベストだったと思っています。
高齢デビューだと、もう後先考えなくていいですから。本当に、自分がいま書きたいものを、書きたいように、書けるだけ書いています。
私も最初は、投稿サイトのテンプレートと呼ばれている異世界転生令嬢モノの設定で書き始めたわけです。でも好きなように書けば書くほど自分の色がどんどん出てきてしまって、いまやずいぶんと毛色が違う内容になってきています。それでも受け入れてくださる読者さんが結構いらっしゃるんですよね。WEB投稿サイトの意外なほどの懐の深さを、存分に楽しませていただいています。書いていて本当に楽しいです。
ただし、難点もあります。高齢デビューの場合、やっぱりちょっと体力が足りません。
私はいま、1作品だけを書いています。投稿サイトに1作品だけ投稿して、運よくその1作品で出版社さんに拾っていただき、ずっとその作品だけを書き続けています。書籍は現在6巻まで上梓していますが、正直なところ完結まであと何巻必要なのか、自分でもよくわかっておりません。ラストはちゃんと決めてあるのですが。
とにかくいま書いているこの作品を完結させること、それが第一目標です。ほかにも書きたい作品の構想はいいろいろあるのですが、まったく手が回りません。
それでも、どうしてもあとひとつ、書かなければと思っています。昭和の初めの、あの仄暗く湿った土の匂いがするような作品を、最低でもひとつ形にしたい。
さすがに私もその時代に生きていたわけではないですが、それでもその手触りを覚えている、おそらく最後の世代だと思います。その昔、夢中になって読み漁った横溝正史先生の作品が、私にとっては恐ろしくリアルだった、と言えば伝わるでしょうか。
ああいう閉じた、どうにも拭いきれない手触りの社会というのは、結構長い間この国の農村部には残っていたのですよね。いや、いまでもどこかで、少し形を変えて残り続けているのかもしれません。不自然なまでに明るく乾いた場所で、その輪郭をぼかしながら。
私は、その閉じた社会の中で自分が生まれてからずっと背負わされ続けてきたものを、いまだに消化しきれていないと感じています。けれど、いつかそれをちゃんと消化して作品にしたい。しかもそれを、ミステリー仕立てにできれば最高なのですが。
今回、日本推理作家協会の末席に加えていただけたことで、それが具体的な目標となりました。実現できるかどうかは微妙ですが、頑張ります。