第六十一回江戸川乱歩賞授賞式
帝国ホテル富士の間にて
第六十一回江戸川乱歩賞に決定した呉勝浩「道徳の時間」(応募時、檎克比朗名義)への授賞式が、九月十日(木)午後六時より、帝国ホテル「富士の間」にて行われた。
京極夏彦事業担当常任理事の司会のもと、主催の一般社団法人日本推理作家協会今野敏代表理事から、「大変な雨の中、お祝いのパーティにお越しいただきありがとうございます。出版界は降り続く雨のように嵐の時代で、いろいろなことが起きている。今は淘汰の時代であろう。こういう時こそ力のある人が生き残る。文化的には非常にいい時代ではないかと思っている。協会員一同、この出版業界の中で生き残るべく努力をしていく。今回の受賞者である呉さんも、この嵐の時代、負けずにきっと生き残り、一流の作家になっていただけると思っている」と挨拶。続いて後援各社を代表して株式会社講談社代表取締役社長の野間省伸氏、株式会社フジテレビジョン代表取締役社長亀山千広氏からの祝辞があった。
授賞式に移り、本賞・江戸川乱歩像と副賞の一千万円が、今野代表理事より呉氏に贈られた。
有栖川有栖、池井戸潤、石田衣良、今野敏、辻村深月の選考委員を代表して辻村氏が「これまでいくつかの賞の選考をさせて頂いたが、青春小説や短編の賞が中心で、ミステリに限定された賞は今回が初めてだった。乱歩賞は私自身も読者としての時代から大好きだった賞なので、自分自身がミステリに対して何を求めているのかを、候補作を読んでいて浮き彫りにされるような体験をさせて頂いた。本作は賞の選考ということを思わず忘れて読みふけってしまった。これまでの経験でこういうことはなかった。この作品は過去と現在にわたる二つの大きな謎がある。その謎の一つ一つが非常に惹きつけられるものだった。この作品を推したいと思った理由の一つが、作内に現れる謎が際立って見事だった点にある。飽きさせない展開で、過去と現在の事件について次々と新しい真相が明らかになっていく。大きい謎を支える小さい謎も、次々と惜しげもなく明かされ、また新しい謎が現れる。非常に読者を最後まで惹きつけるリーダビリティにあふれた作品だと思った。選考については様々な意見が出た。改稿が進められたということであるし、いろいろな方の手に取られて読んでいただきたい本になったと思う。選考を終えたあと、非常に面白く読んだといったあなたが授賞式の選評を担当するということでいいねと、他の委員から言われた。私の姿を見ておわかりの通り妊娠しておりまして今八ヶ月です。選考会の時に、臨月に近い身体で壇上で選評やって大丈夫ですかねと言ってみたら、おめでたいからなおさらやるといいよと言われた。妊娠は選評の抑止力にならなかった。そんなやりとりからすごい素敵な先輩方に恵まれているなと感じた。ミステリーの先輩方はすごく暖かい。先輩後輩というより、家族のように先輩の作家さんたちから見守られていると感じる。これはたぶんミステリーというものが持っている力が大きいと思う。ミステリー業界の方たちは、同じ畑から出てきた人を、ゆるやかに自分の家族のように迎えてくださっているなと思う。私自身、そんな温かな雰囲気というものに支えられ、先輩たちに助けられ、同期の方たちと楽しい関係を築いて、ここまで小説を書いてこられた気がする。今回、日本ミステリーを築いた江戸川乱歩の名を冠した賞を受け取られた。これはデビューした段階から、見守ってくれる大きな家族を得られたということだ。私自身も選考委員として家族のような存在として新しい才能をお迎えできることを幸せに感じる」とエールを送った。
受賞の挨拶に立った呉氏は「受賞の連絡をいただいて四ヶ月ほどになるが、その間は波瀾万丈な日々だった。その締めくくりが昨日の台風なのかと思うと、僕らしいなという気持ちになる。率直に言って、これは大変な世界に飛び込んでしまったなというのが実感だ。ただこの場所を目指したのは私自身の意志であることは間違いない。こうなった以上は絶対に生き残ってやろうと思っている。まずは皆さまの予想を少しでも超える二作目を、できるだけ早く発表したい。この先は自分の力で切り開いて行くほかはないと覚悟して、いつまでも挑戦を続けていきたい」と喜びと抱負を語った。
呉氏に花束を贈った後、北村薫氏の発声により乾杯。五百名近い参加者が、呉氏の受賞を祝した。