新入会員紹介

ヨーソロー! 入会によせて

時武ぼたん

 はじめまして。このたび、入会させていただきました時武ぼたんと申します。ご推薦いただきました山前譲理事、若桜木虔先生には、この場をお借りしまして、心より御礼申し上げます。
 実は、私は元海上自衛官でして、風変わりなペンネームから、たまに男性と間違えられるのですが、女性です。海上自衛隊では、女性自衛官を総称して「WAVE~ウェーブ~」と呼称します。
 私のデビュー作も『ウェーブ~小菅千春三尉の航海日誌~』で、題名のとおり、主人公のウェーブが活躍する、練習艦ミステリーです。現役時代の艦艇勤務の経験を活かして、練習艦で起こる小さな珍事件を積み重ね、練習艦の日常と人間模様を描きました。もちろんフィクションですから、実際の練習艦で、こんな変な事件ばかりが立て続けに起きているわけではないので、ご安心を。
 さて、自衛官といいますと、どうしても体力勝負のイメージが付きまといますが、私は元々、身体が弱く、幼少期はまともに学校にも通えないような子どもでした。病床で本ばかり読んでおり、その頃の愛読書はミヒャエル・エンデの『モモ』や『はてしない物語』でした。ペンネームの「時武ぼたん」は、その頃に読んだ、エンデの『ジム・ボタンの機関車大旅行』に由来します。
 ずっと身体コンプレックスを抱えながら成人し、大学時代に「ターミネーター2」を見てからは、リンダ・ハミルトン演じるところのサラ・コナーに憧れ、あんな強いお母さんになりたい、とよく思ったものでした。
 自衛隊との出会いは、ちょうどその頃。当時、隣に住んでいた、自衛隊好きの小父さんが富士総合火力演習を見学に行き、そこで貰ってきた自衛隊のパンフレットを私に見せてくれたのです。
 就職活動の真っ最中だった私は、一目見た瞬間に「これだ!」と思いました。長年の身体コンプレックスを克服して自らを鍛え上げ、自分を試してみたい、と。 
 すぐに、自衛官を募集している案内所に話を聞きに行き、その場で志願しました。
 陸・海・空の紹介ビデオを見た後、
「どちらにしますか?」
 と尋ねられ、私は即座に「海でお願いします!」と答えました。
 海上自衛隊の白い制服に一目惚れした私は、自分がまったくのカナヅチである事実も忘れ、迷わず「海」に決めたのでした。
 ところが、いざ江田島の幹部候補生学校に入校してみると、八マイル(約一五キロ)の遠泳訓練が待ち構えていました。
 海上自衛隊では、水泳能力が基準に達しない者は「赤帽」と呼ばれ、文字通り、赤い水泳帽を被って泳がねばなりません。
 同じ「赤帽」の中でも、特に能力の低かった私は、教官に「君、そんな調子でよく『海』を志願したね」と感心されたものです。
 誰もが、私の完泳は不可能だと思っていたに違いありません。当の私自身、まず無理だと思っていました。
 しかし、奇跡は起きたのです。朝の七時から夕方の四時半まで、ほぼ一日かけて江田島湾を泳ぎ通し、必須の八マイル遠泳をクリアできたのです。もちろん、私一人ではこんな奇跡は起きません。共に泳いだ同期、同じ分隊の仲間たちの励ましや協力のおかげです。
 私一人が遅れると、仲間が後ろから私を押してくれたり、声を掛けたりしてくれました。巡視艇に乗った教官が、海面にバラ巻く「カンパン」を立ち泳ぎでパクつき(さながら餌に群がる鯉のよう!)、艇の縁に掴まって泳ぎながら、昼食のおにぎりを頬張った稀有な経験は、いつか作品に使えるのでは? と企んでおります。
 卒業後、艦艇勤務を経て、自衛隊は結婚退職しましたが、今度は小説という名の、手強い大海原へ、錨を上げての出港です。
 幼少の頃から、私の関心事は「人間」であり、「人の心」でした。これほど掴みどころがなく、不可思議なテーマはありません。それこそ、最大のミステリーであり、一生かかって追いかけていきたいテーマです。
 パラララ、パラララ、パッパラッパパパパー!
「出港用意!」
 出港ラッパは鳴り、号令も既にかかりました。はてさて、何処に辿り着きますやら。
「両舷前進原速!」
 執筆の友であるチョコレートを満載して、チョコタービンエンジン、回転整定です。あとは、祈安全航行!
 会員の皆様、どうかひとつ温かい目でお見守り下さい。ヨーソロー!