新年のご挨拶

代表理事 今野敏

 明けましておめでとうございます。
 また、新しい年がやって参りました。ここ何年か、同じような話題に触れているような気がしますが、やはり出版界を巡る状況はあまり芳しくないようです。
 特に、新人作家たちになかなかチャンスが巡ってこないということが言われているようです。私たちが若い頃には、ノベルスが全盛で、書けば本にしてくれたという幸せな時代だったようです。
 しかし、それが出版界にとって本当に幸福だったかどうか、実は疑問に思っているのです。当時のノベルスは、まさに玉石混淆でした。月に何冊出すかというノルマのために、正直言ってあきれるような内容の作品も少なくなかったのです。
 ノベルスはその後急速に衰退していきます。その役割を終えたのだという見方もありますが、実は乱発によって自らの首を絞めたのではないかと私は考えています。
 好事魔多しの言葉どおり、好景気だからいいとは限らないのです。
 今は、こういう時代だからこそ、本物が残る。そして、自分こそが本物だ。そう肝に銘じて仕事をしなければならないと思います。
 私たちの仕事は、言霊を操ることでもあります。言霊というのは、神秘的なものではなく、むしろ心理的なものだと思っています。
 後ろ向きの発言ばかりしていると、いつしか世の中はそちらに向かって進み始めます。今こそ淘汰の時代だ。そして、魅力的で力強い作品は、必ず世に受け入れられる。ミステリーがその役割を担うのだ。
 そう自らに言い聞かせ、常に言いつづけることで、少しでもいい流れを作っていくしかありません。
 状況は悪くなるのではなく、ただ変化するだけです。右往左往しても仕方がありません。ただできることをしっかりやるしかない。そして、我々作家にできることは、良質の作品を世に問うことだけです。
 今年も共に頑張りましょう。