健さんのミステリアス・イベント探訪記 第67回
懐かしくも愚劣かつ消耗のミステリファン向けパーラーゲームの数々
ミステリコンシェルジュ 松坂健
正直に告白するが、今月はネタ切れの大ピンチ。休載も考えたが、そういうのは僕の流儀ではない。何とかしたいと思いついたのが、かつて大学生のとき、ミステリクラブなどで流行ったミステリ系のゲームのこと。今も現役で行われているものもあれば、面倒なので廃れてしまったものもあるが、こういう伝承芸能は大事に記録しておかないと、という使命感もあり、今月はかつてミステリマニアが集まると飽きもせずやっていた愚行の数々を紹介しておこうと思う。
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(犯人当てゲーム)
ミステリマニアが集まってやるゲームの王道は、やはり犯人当て。誰かが原稿用紙で5~10枚程度の犯人当てコントを書き下ろし、それを朗読し、犯人、推理の根拠などを紙に書いて、のちにみんなで発表しあうきわめてオーソドックスなゲームだ。
僕が大学生だった頃は、ミステリクラブの早慶交歓会が年に一度あり、主催校(毎年交代)側が問題編を出して挑戦しあっていた。ワセダミステリクラブの先輩Nさんはなかなかの名人で、ある小惑星で巨大な石の下敷きになって死んだ男をめぐるSFミステリはなかなかの傑作だったと記憶する。容疑者が3人いて、一人がテレキネシス(念動力)、一人がテレポーテーション(念力移動)、一人がエスパー(感知能力)の持ち主という設定。どんな形の共犯もありで、それぞれの特殊能力の組合せで謎を解きなさい、という趣向なのだが、思いがけないどんでん返しがあって、という話。これは鮮やかだったなあ。
ともあれ、こんな手の込んだお遊びもやっておりました。
(マ―ダーゲーム)
これは最低でも10人くらい必要。少人数じゃつまらない。場所として大勢の人間がばたばた動き回れるくらいの面積をもつ広間が必要。そして、その広間の照明をいっせいにオフにできるスイッチが部屋の外に付いていると理想的だ。
まず10人の中からカードを引くなどして、探偵・ワトソン・犯人の3名を選ぶ。探偵とワトソンはその場で名乗って部屋の外に出る。犯人のカードを引いた人は何喰わぬ顔でとぼけていること。
ゲームは外に出た探偵役が照明スイッチをオフにして、広間を真っ暗にすることからスタート。犯人は暗闇のなか蠢いて、これは!と思う人を見つけたら、背中を強めに叩く。叩かれた人は殺されたという設定なので、大きな声でギャーっと叫んで、床に倒れるというルール。その悲鳴を聞きつけた探偵は、急いでスイッチをオンにする。どんなに急いでも数秒の間が生まれるもので、その間、暗闇の中で犯人は位置を変えたりする。さて、広間の明かりがついた瞬間、全員、その場から動いてはいけない。
その状況の中に、探偵とワトソンが入り、みんなを尋問して回る。悲鳴が上がったとき、風がどんな感じで動いていたかとか、香水の匂いはどうだったとか。それで、探偵が犯人を無事指名出来たらめでたし、というゲーム。
これがねえ、やってみると興奮するのだね。もっとも、結構どたどたするので、宿の経営者や他のお客様の顰蹙を買ったり、以後、出入りまかりならぬ、の宣告を受けたりすることもある。体力勝負のミステリゲームだ。
(1分間ゲーム)
必要なのは紙と筆記具(全員分)。それぞれ紙に5×5のマス目を書く。一番上の列には項目名を並べる。項目は何でもいいのだが、ミステリファンだからたいていはミステリ小説の題名とか凶器になるもの、といった項目を入れることが多い。あとはお花の名前とか歌謡曲歌手の名前とかその場で決めればよい。
勝負はリーダーが、「ア」でも「ヨ」でも一文字決めてそれを伝える。競技者はそれぞれの項目に、そこで指定された1文字で始まる単語を入れて埋めていく。できれば5つの項目すべて埋めたいが、時間制限は1分。タイムキーパーが「止め」と唱えたら紙を置かなければいけない。そして、ひとりひとりどんな単語を入れたか発表する。当然、同じものを挙げてしまう人も出現する。これを「がっちゃん」と言って、項目が埋まっていても得点にならない。誰も挙げていないものが記されて初めて一点。何も書かなければ、がっちゃんの危険性はゼロだけど、それではつまらないのでマイナス1点と換算。これを10回くらいやって、総合点で優劣を決める競技だ。時々、とんでもない単語で埋める人間が出てくる。思い出すのは、「に」の項で推理作家として新渡戸稲造を挙げた人の強弁。『武士道』はミステリだと5分ほど熱弁をふるっていたけど、こういうのは大方の賛同が得られないと零点換算。いくらなんでも、新渡戸さんはミステリ作家じゃないやね。
(二行連作)
400字詰め原稿用紙を各自に配布。誰でもいいが、そこいらにある小説本の一節をランダムに選び出し、読み上げる。全員、それを手元の原稿用紙に写す。
まず、自分がその書き出しに二行分書き加えて、それを右隣の人に渡す。すると自分のところには共通書き出しに二行加えられたものが到来している。それを読んで、これにまた二行書き加える。大体10名くらいがいいのだが、最後には自分が最初の二行を書いたものが戻ってくる。それを通読して、どんな形でもいいから結末をつけて、それを朗読しあい、いいものをみんなでほめたたえるというゲームだ。結末のタブーは「夢オチ」、中盤では「ちょうどその頃マダカスカルでは」みたいなのもやってはいけない。
つまりいっぺんにショートショートが参加人数分出来るわけだ。これは頭をものすごく使うゲームで、終わるとへとへとになる。
なお、この変型で、ひたすら五七五七七を順番に書き加えて、歌謡曲の歌詞をつくるなんてのもありました。
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他にも、これまた紙と鉛筆だけあればやれる「釜ヶ崎ルーレット」なんて簡易博奕もあるのだけれど、こんなゲームで夜明かししていた昔、のどかで懐かしいねえ。
他にこの手のゲームを知っている方、機会があったら教えてください。