名誉会員内田康夫氏死去
名誉会員の内田康夫氏が三月十三日、敗血症のため亡くなられた。八十三歳。内田氏は一九三四年東京生まれ。東洋大学文学部中退。
テレビCM制作会社を経営していた一九八〇年に自費出版した「死者の木霊」が編集者や評論家の注目を浴び、作家デビューをはたした。二作目の囲碁界を舞台にした「本因坊殺人事件」(八一年)に続く三作目の「後鳥羽伝説殺人事件」(八二年)で、フリーライターの浅見光彦が探偵役として初登場した。愛車ソアラで移動し、全国各地で起きる事件を解く永遠の三十三歳という浅見のキャラクターは読者に愛され、以降一一四冊に及ぶ人気シリーズになった。
「死者の木霊」で探偵役を務めた竹村岩男刑事が登場する「戸隠伝説殺人事件」(八三年)など信濃のコロンボシリーズ、「「萩原朔太郎」の亡霊」(八二年)などで活躍する岡部和雄警部シリーズ、「少女像は泣かなかった」(八八年)の車椅子の少女探偵・橋本千晶、「湯布院殺人事件」(八九年)の和泉夫妻など、浅見光彦以外にも、個性的な探偵役を登場させている。
日本各地の伝説などをベースにした旅情ミステリーを確立させた功績は大きいが、「怪談の道」(九四年)、「明日香の皇子」(八四年)、「靖国への帰還」(二〇〇七年)など、現代の社会問題や反戦を訴えた作品も上梓している。
〇二年には、公募新人賞「北区内田康夫ミステリー文学賞」を創設し、同賞はすでに十六回を迎えている。
毎日新聞に浅見シリーズ「孤道」を連載中の一五年七月に脳梗塞を発症し、闘病生活に入り、その後小説の休筆を宣言した。未刊のまま中断した同作の完結編を公募するプロジェクトを始動し、公募締切を目前にしていた際の死であった。
趣味の囲碁はアマチュア高段の域に達しており、当会の囲碁同好会にも積極的に参加していた。
〇八年に日本ミステリー文学大賞を受賞している。
軽井沢の浅見光彦記念館に設置された献花台に供花を呈し、協会よりの弔意を表した。