新入会員紹介

新入会員挨拶

阿津川辰海

 新入会員の阿津川辰海と申します。よろしくお願いいたします。先日第二弾が刊行されたばかりの「カッパ・ツー」という新人賞からデビューし、多くの方のご協力をいただき会員となりました。この場を借りて御礼申し上げます。
 私が「日本推理作家協会」のことを強く意識するようになったのは、中学三年生の時です。もちろんそれまでにも、宮部みゆき先生の『龍は眠る』や恩田陸先生の『ユージニア』など、現代ミステリーが好きだった両親の影響で、数多くの推協受賞作を読んできていました。しかし、「作家が好き」という認識の方が強かったのです。
 私の通っていた学校は中高一貫校で、高校の図書室も使っていいと聞き、中二の頃からよく入り浸るようになりました。この図書室が凄かったのです。横溝正史作品、アガサ・クリスティー文庫は全巻揃い、海外ミステリー、現代ミステリーも豊富。あの図書室があったから、今の私があるといっても過言ではありません。
 そして中三のある日、文庫の棚の一隅に、「黒い本」がたくさん並んでいるのに目を惹かれました。そう、双葉文庫の「日本推理作家協会賞受賞作全集」です。全部揃ってはいなかったものの、その装丁が気になり、私は『不連続殺人事件』『能面殺人事件』を借りていき、あまりの面白さに夜中まで読んでしまったのです。どちらもその頃好きだったクリスティーを思い出させたというのもありました。
 それ以来、「もしかしてあそこに並んでいた『黒い本』は全部面白いのではないか?」と思うようになり、『憎悪の化石』『黒い白鳥』『影の告発』『蒸発』『日本沈没』『乱れからくり』『事件』『大誘拐』『アリスの国の殺人』『チョコレートゲーム』『背いて故郷』などを立て続けに読み、一段と深く、ミステリーの世界にハマったのでした。何より、「ミステリー」の奥の深さ、懐の広さを知れたのが大きかったのです。ちなみに、特に好きなのは『短篇集Ⅲ』です。各先生の粒よりの傑作が凝縮されていて、これほど強いアンソロジーはなかなかありません。
 その頃から文芸部に入り、いずれは作家になると息巻いていた私は、「私もいずれあの『黒い本』を出してもらいたい」と思うようになりました。なんという大言壮語を吐いていたのかと、今から思うと顔が熱くなります。「新しい方の受賞作は、あの白い背のものらしい」と気付くのは、迂闊にも、それから約半年後のことです。
 とはいえ、あの経験があったからこそ、様々な時代のミステリーに深い思い入れがあるのだと思います。ということで、日本推理作家協会には感謝しかありません。これから御恩返しも兼ねて、また会員の一人として、精進していきます。よろしくお願いいたします。