新入会員紹介

新入会員挨拶

萩鵜アキ

 この度は、日本推理作家協会の末席に加えていただき、まことにありがとうございます。
 私は第六回ネット小説大賞にて受賞し、『冒険家になろう!~スキルボードでダンジョン攻略~』で双葉社からデビューいたしました、ライトノベル作家です。
 唐突ですが、私は昔から読書が大嫌いでした。作家になった今もなお(物語は大好物ですが)読書は苦手です。というのも、本を読むと身体的ダメージを受けるからです。
 眼球が文字を追うことを拒絶し、改行の際は度々前の行を読み始める。「出演」を「演出」と入れ替えて読んでしまう。否定文を肯定文に読み間違い、後になって物語の意味が通じなくなって再び前の頁を読み返すなどなど。それでも根気強く読み進めると、今度は紙の上で文字が躍り始め、目が回ってしまうという始末。はじめの頃は一冊読了するのに数日を要するほど、私にとって読書は大仕事かつ苦行でした。作家になろうと決意した頃は年に二百冊以上小説を読みましたが、何度となく小躍りする文章に平衡感覚が破壊され、ベッドに倒れ込んだものです。
 どうやら読書が嫌いな原因はこの症状のせいだと気づいたのは、数年経った後のことでした。
 ―ディスレクシア。これが、私が抱える読書困難な状態の名前です。
 ディスレクシアを抱えた私でしたが、不思議と執筆についてはまったく問題なく行えました。それどころか一日最大で原稿用紙百枚書けるほどで、「もしかしたら才能があるかも?」なんて思ってしまったのが運の尽き。小説を書き始めてからデビューまで、十一年もの厳冬期を過ごすこととなりました。
 アマチュア生活十年目くらいから、公募小説賞への投稿と平行して『小説家になろう』への投稿を本格化したのは良い転機になりました。
『小説家になろう』は自身の小説への評価やアクセス数が一目でわかります。読者がどこに関心を持っているか、何を求めているのか、どこで飽きているのか、このタイトルはフックが強いのか弱いのかなど。公募小説賞への投稿だけではわからなかったデータが、一目でわかる。それらのデータを活用して自作に落とし込んだところ、実力以上の結果が出まして、あれよあれよと受賞に至りました。
 現在は小説だけでなく、漫画原作のお仕事も頂けるようになり、作家のコミュニケーションの一助として立ち上げた『北海道作家会』の代表も務めております。
 こうした今があるのは、読者が背中を押してくれたから。また、アマチュア時代に下読みやプロの小説家に助言を頂いたおかげでもあります。そういった読者や助力者の縁を蔑ろにせず、『この結果は自分の努力のおかげだ』などと自惚れることもせず、今後も作家・原作者として謙虚に活動していく所存です。

 さて、私はディスレクシアで読書が苦手でしたが、他にも苦手だったものが存在します。それは、将棋です。
 私が小学生の頃、羽生善治(当時竜王・名人)が丁度七冠を達成して、一気に将棋ブームが巻き起こった時代でした。私も流れに乗って将棋を指していましたが、なかなか勝てない。どう足掻いても、クラスの上手い人に負かされてします。その結果から『私はきっと将棋が苦手なんだ』と思い、以降は駒に触れることもなくなりました。
 しかし最近になって、藤井聡太竜王の登場で再び将棋ブームが到来。私はもっぱら『観る将』と呼ばれる観戦専門の将棋ファンだったのですが、今後執筆する小説の参考になればという思いから、再び将棋を指し始めました。
 現代は将棋ソフトが発達したおかげで、相手がいなくても面白い対局が出来るようになりました。はじめは携帯アプリの『ぴよ将棋』十級にすら完敗。しかしそこで諦めず、自分の指した手を分析してまた対局を続けました。さらに『水匠』というソフトも使い始め、棋譜解析や研究を進めるうちに、初段の免状を頂けるまでに成長しました(現在は観る将に戻ったので、棋力ががくっと落ちていますが……)。
 将棋は苦手と思っていたけれど、実は違うのではないか? 齢三十を超えても、自分のことは何もわからない。わかったつもりになっているだけなのだと、実感させられました。
 ディスレクシアでもプロ作家になれたこと、そして将棋で初段に至ったこと。これらの経験から『自身が問題を抱えている、あるいは苦手だと思っていることでも、チャレンジを諦める理由にはらない』という結論が導き出されます。
 何でも良い、趣味でも夢でも暇つぶしでも、『出来ない』や『苦手』でシャッタを降ろさず、まずはチャレンジする。その結果、たとえものにならなくても、得られるものはとても貴重な経験になる。こうした思いを、上手に物語れるようになりたいです。
 また、ディスレクシアの方にとって読み易い小説が書きたいという思いもあります。私のように『読書は苦手だけど物語は好き』という方は、きっとたくさんいらっしゃるでしょう。そんなひとにとって読書し易い、あるいは読書が好きになるような小説を上梓する。それが、私にとっての夢であり、目標です。

 長くなりましたが最後に、入会の際にお力添えを頂きました佐藤青南さん、事務局の皆様、本当にありがとうございます。
 若輩者ではありますが、何卒ご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いいたします。