島崎博会員に台湾推理大賞
さる三月九日、台湾推理作家協会(冷言理事長)の第一回台湾推理大賞の授賞式が台北の金車文芸センターで開催され、海外ミステリーと映画の分野における優れた評論や翻訳などの活動で景翔、また、台湾および日本のミステリーに関する長年にわたる評論・研究活動で傅博の両氏にそれぞれ大賞が授与された。この大賞は同協会の法人化が認められたことを機に制定されたもので、長年の功績を称えるいわば巨匠賞。賞牌と賞状が授与されるが、毎年与えられるものではない。作品賞的なものは、協会の別の賞がある。
大賞受賞者二人の内、傅博というのは、実は日本の推理作家協会会員でもある島崎博氏のことである。
島崎博氏は、もともと台湾の生まれで、本名は、傅金泉。日本留学中の早稲田大学院在籍時代にワセダミステリクラブに所属、その後、日本の探偵小説の膨大なコレクションを基に一九七五年二月に探偵小説専門誌『幻影城』を創刊。併せて新人賞を創設して新人の育成に努め、泡坂妻夫、連城三紀彦、栗本薫、田中芳樹、竹本健治など個性的な作家を輩出させた。この雑誌には特に新本格派の作家などが影響を受けたことはご存じのとおり。
七九年に台湾に帰国してからは、日本ミステリーの台湾への紹介に努めるとともに、台湾の若手ミステリー作家の育成にも力を尽くした。今回はその功績が認められての大賞の受賞である。
現在台湾では、東野圭吾、宮部みゆきをはじめ日本の現代ミステリーがいち早く翻訳紹介されている。いろいろ意見はあるだろうが、その最初の流れを作ったのは何といっても日本の推理小説事情に詳しく、日本語にも堪能なこの人の功績といえるだろう。今回の受賞は日本と台湾ミステリー界の交流という面でもうれしいニュースといえそうだ。
ただ、現在の台湾推理作家協会はまだ、スタートしたばかり。会員も作家、評論家を合わせても三十人程度で、台湾の出版市場の問題もあって創作活動も必ずしも十分とはいえない。しかし、島田荘司氏が現地で賞を設け、台湾の新人作家の育成に力を入れており、これからの活躍が期待されている。
大賞の授賞式と、夕刻からブラザーホテルの中華レストラン蘭花疔で開催されたお祝いの会には日本から、五○年来の友人である権田萬治、『幻影城の時代』を編集した本多正一、久生十蘭全集の編集、監修に協力している沢田安史、雑誌『幻影城』と島崎博を研究している野地嘉文、石井春生、竹上晶の六人が出席。
授賞式では友人代表として権田がお祝いの言葉を述べ、併せて東日本大震災の際に台湾の方々から日本に寄せられた暖かい支援に一人の日本人として感謝の意を表した。(権田萬治記)