追悼

佐野洋さんに思う

梓林太郎

 三十年近くも前のことだが、パーティの席上で佐野洋さんに声をかけられた。
 「あなたは、清張さんと親しかったという話をきいたので」といわれた。
 「ええ、まあ。二十年ばかりのあいだ」
 松本清張さんの名が出たので、思い出したことがあって、「清張さんと推協のあいだに、なにかいきちがいがあったそうですが」と私がきいた。
 佐野さんは、「推協の会長だった清張さんに、お知らせと、お断りをしないことがあって、お叱りをうけた。後日、お宅へうかがって、事の次第を説明して謝りました」
 と、その経緯を詳しく話してくださった。いきちがいの原因は、どうやら清張さんのほうに非があったようだ。
 その日は、初めて佐野さんと一緒に銀座のクラブへいった。その店でも佐野さんは、穏やかに笑いながら、清張さんの怒ったようすを話しておられた。清張さんご存命のころのことである。