私の執筆儀式

篠田真由美

篠田真由美

 儀式というほどのものではないのだが、煙草を吸っていたときは、朝パソコンの前に座って電源を入れたら、何か飲み物と、紫煙一服というのが習慣だった。(夜はもっぱらプライヴェートな時間なので)。書いていても句読点的に、一服二服。吸いすぎると覿面に舌が荒れる。その数が次第に減っていっても、朝はどうしても仕事始めのアクセルとしての一服が欲しいと思い続けていたのを、さしたる大決心もなく止めた。もともとふかしているだけだったので、ニコチンの禁断症状も出なかった。
 いまは珈琲豆を挽いて丁寧に一杯を抽出し、それを片手にパソコン前へ。コーヒーも煙草と同じで、飲み過ぎれば胃に来るから量は取れない。コーヒーの他は紅茶、ハーブ茶、中国茶、煎り番茶など、各種取り揃えてかわるがわる。口寂しくなればキシリトールガムをきりきり噛むことにして、カロリーのあるおやつは身辺に置かず、夕飯まで腹が減ったら、蒟蒻ゼリーか煮干しか。色気もなければ洒落気も皆無だが、これが還暦を目の前にしたオバハンの毎日です。