森達也監督との一問一答
両角長彦
『311』というドキュメンタリー映画があります。題名通り、311震災の被災現場での映画です。
惨状そのものではなく、惨状をみつめるスタッフの表情だけを見せるという特異な手法が賛否を呼びましたが、私は「これは黒澤明の『影武者』ではないか!」と思ったのです。
『影武者』のラスト、武田信玄のダメ息子勝頼の軍勢が自滅的に全滅していく場面で、カメラは撃ち倒される軍勢そのものではなく、それをギリギリ見つめるショーケン、じゃなかった勝頼の表情を長く長くとらえ続けます。
悲惨であればあるほど、それをあえて見せず、それに直面しなければならない者の顔をこそ見せるという間接描写。『311』の森達也監督はこれをより徹底させたのに違いありません。どの映画評論家も気づかなかったことに、私だけは気づくことができたのです。私は自分の慧眼に酔いました。
先日、あるパーティで森監督を見つけた私は、名刺交換が終わるのももどかしく尋ねました。
「監督、『311』は『影武者』ですよね?」
森監督は「そのとおり! よくわかってくれたね」と感激するかと思いきや、目をぱちぱちさせて、「えっ、影武者? 何のこと?」
………………………………
私は「すみません。忘れてください」と言ってその場を離れました。そういうものだ(Cカート・ヴォネガット JR)。