日々是映画日和

日々是映画日和(56)

三橋曉

 二番煎じは映画の世界でもよくあることだと思ってきたが、そんな経験則を心地よく覆されるる続編と続けざまに遭遇した。〈エクスペンダブルズ2〉と〈ゴーストライダー2〉である。どちらも、全編をステップボードに、その面白さに一段と磨きをかけた天晴れなパート2だった。続編は冴えないという私の中のジンクスは、もはや過去の思い込みに過ぎないのかもしれない。

 さて、今月のトップバッターもそんな一作である。リュック・ベッソン製作の〈96時間〉では、優男から柄にもないアクション・スターに仕立て上げられたリーアム・ニーソンだが、監督をピエール・モレルからオリヴィエ・メガトン(〈コロンビアーナ〉)にバトンタッチした後日談の〈96時間/リベンジ〉では、さらにヒーローぶりが板についてきた印象だ。パリ旅行中の愛娘を拉致誘拐された元CIAのニーソンが、わが子を救い出すため犯人グループのアルバニア系人身売買組織のアジトへひとり乗り込んでいったのが前作。フランスからトルコへと舞台を移した今作は、先の事件でニーソンに殺された犯人グループの血縁者たちが、その復讐に乗り出してくるというお話だ。
 娘のデート相手にまでちょっかいを出すニーソンの過保護な父親ぶりには相変わらず呆れるばかりだが、この続編では誘拐された母親のファムケ・ヤンセンを取り戻すために、娘のマギー・グレイスも大活躍を見せる。拉致されたニーソンがあの手この手でその居場所を娘に伝えようとする展開が、ロケ地イスタンブールの猥雑な雰囲気と見事にマッチし、ミステリの興趣を盛り上げる。ただ、逆恨みもいいところの復讐劇は終ることのない暴力の連鎖を予感させ、やるせない余韻を残す。(★★★1/2)

 今の香港映画界を牽引するひとり、ダンテ・ラム監督の新作〈ブラッド・ウェポン〉は、母国を離れて海外をロケ地としている。水中の廃墟をカメラが追う意味深なタイトルバックに続き、中東ヨルダンの街を舞台に誘拐テロをめぐる追跡劇のシーンが畳みかける。そんなアジア映画とは思えない迫力の冒頭に続いて、テロリスト(ニコラス・ツェー)と国際警察(ジェイ・チョウ)という敵同士として再会した生き別れの兄弟を巡る血の絆の物語が静かに浮かび上がってくる。
 そのベタで浪花節風のところは、やや好みが分かれるかもしれないが、兄弟の片方を物語の時限装置に仕立てたあたりがこの脚本のミソだろう。随所で映像感覚の冴えを見せつけた〈密告・者〉や〈ビースト・ストーカー/証人〉と較べると、今回はオーソドックスなつくりに徹して、二時間を越える長めのドラマの緊張感を途切れさせないよう心を砕いており、冒頭とのシンクロが感動をもたらすラストまで、間然するところがない。マレーシアの都市部を使ったロケも違和感なく、アジア圏という枠組みを破ろうとする意気込みが伝わってくる。(★★★)

 ポーの「早すぎた埋葬」を連想させる〈[リミット]〉がサンダンス映画祭で喝采を浴びたというスペインの新鋭、ロドリゴ・コルテスの〈レッド・ライト〉は、超能力の存在をめぐる科学とオカルトのせめぎあいを描いている。物理学博士のシガニー・ウィーバーは助手のキリアン・マーフィーとともに、詐欺まがいの超能力者たちを数々見破ってきたが、三十年前にブームを巻き起こした超能力者ロバート・デ・ニーロが突如カムバックし、超能力を売り物にしたショーを再開したことに、なぜか動揺する。かつて彼とテレビ番組で対決し、敗れた苦い過去が彼女にはあったのだ。デ・ニーロを警戒するよう助手に助言するが、それを無視してショーに忍び込んだキリアンは、恐るべきパワーが会場をパニックに陥れる場面を目の当たりにする。
 どこかいかがわしい超能力者の不思議な力をめぐって、徹底的に科学的な検証がなされる展開は、ユリ・ゲラーの騒動を懐かしく思い起こす世代もあるだろう。登場人物らの虚々実々の駆け引きや、幻想と現実の狭間を行く物語展開はいっときとして観客を解放しない緊張感があり、デ・ニーロとキリアン・マーフィーが対峙するクライマックスで明らかにされる真相も衝撃的といっていい。ただ、ミステリ映画としてのカタルシスを十分に備えながら、真相へと至る過程の紆余曲折に混沌としたところがあって、やや判りにくいのが惜しまれる。(★★★1/2)

 最後は、久しぶりに日本映画を取り上げたい。〈ナイトピープル〉の原作は、逢坂剛の「都会の野獣」という短篇で(「情状鑑定人」所収)で、繁華街に軒を並べるワインバーの ナイトピープル に、ひとりの女(佐藤江梨子)が転がり込むところから始まる。店主の北村一輝は、この店で使ってほしいという頼みを聞き入れ、彼女を雇い入れるが、刑事を名乗る男杉本哲太が現れ、彼女は二億円を強奪した前科者であると言い放つ。旧知の仲である若村麻由美の忠告もあって、本人を問い質した店主だったが、意外な話を彼女は持ちかけてきた。つきまとう刑事を殺して、二億円をふたりで山分けしよう、というのだ。
 まず嬉しいのは、九十分という上映時間である。二時間越えがザラ、しかも作り手側の優柔不断が如実に現れたやたらと長い作品が目につく最近の風潮の中にあって、この短さは実に潔い。しかも、その中にはミステリとしての企みや男女の機微や葛藤がこれでもかと詰め込まれていて、濃密な犯罪映画の世界が展開されるのだからこたえられない。テンポの良さときびきびとした演出は、〈棚の隅〉(原作は連城三紀彦)で注目された門井肇監督のもので、原作をさらに濃縮するような形で一本の映画にまとめあげている。プログラミング・ピクチャーの秀作を思わせる小股の切れ上がった仕上りといっていいだろう。(★★★1/2)
※★は四つが満点(BOMBが最低点)です。