きのこ三昧
豊田有恒
築三十五年の山小屋に手を入れて、隠居所を兼ねた仕事場として、使っている。年のうち、三分の一は、ここ蔵王の遠刈田温泉で、暮らしている計算になる。3・11も、ここで体験した。角ログ構造なので、揺れはしたが、つぶれなかった。
近くでは、きのこが採れる。このあたりの方言で、オリミキと呼ばれるナラタケが多いのだが、他にも、いろいろな種類が、かんたんに採れるから、きのこ好きには、こたえられない。ただ、縦に裂けるもの、などといった見分け方の俗説は、すべて嘘である。なんというきのこか、確認してみないと、毒きのこでないという保証は、まったくない。三種類の図鑑を用意して、未知のきのこに出くわした場合に備えているが、それでも、自信のもてないものにあたる。ウラベニホテイシメジらしいものを採ったことがあるが、専門家でも、クサウラベニタケという毒きのこと、見分けがつかないというから、残念ながら捨てた。
よく採れるものに、タマゴタケがある。十五センチもある真紅の笠が美しく、鍋には絶品だが、きのこのことを知らない人が見たら、俗説どおりの毒きのこと思うだろう。
また、長年の謎だったきのこもある。直径三十センチもある大型のアカヤマドリは、図鑑では美味となっているが、鍋に入れたところ、マツタケの腐ったような強烈な臭いで、鍋ごと捨てる羽目になった。イタリアへ行った時、積年の疑問が氷解した。アカヤマドリは、ポルチーニと、そっくりなのである。オリーブ油とニンニクでソテーしたり、スパゲティーに入れたりすると美味いと判った。国産のくせに和風料理に合わないきのこなのだ。