日々是映画日和(71)
現在公開中の『ヘラクレス』(ブレット・ラトナー監督)は、ギリシア神話に登場する神の血をひく剛力無双のヘラクレスをプロレスラーのドウェイン・ジョンソンが演じる歴史ドラマだ。直接の原作はグラフィックノベルだが、十二の難行を成し遂げた後、仲間を集めて傭兵として戦う英雄のその後を描いている。『エクスペンダブルズ』シリーズや『七人の侍』を連想させたりもする娯楽性たっぷりの作りの中には、実はミステリ的な要素も仕込まれていて、映画の成功に繋がっているように思える。
さて、今月の一本目は、ユアン・マクレガーの悪漢ぶりが珍しい『ガンズ&ゴールド』。といっても、主役はディズニー映画の『マイフィセント』にも顔を出していた若手のブレントン・スウェイツで、彼が刑務所に収監されるところから始まる。所内を牛耳るマクレガーは、チェスを通じて知り合った新米に、悪辣な連中から庇ってやる交換条件として、脱獄の手伝いをさせる。ヘリを使った大胆な計画が成功し自由の身になった主人公は、成り行きからマクレガーが統率する金鉱精練所の襲撃計画に加わる。しかし犯罪組織の女アリシア・ヴィキャンデルに惹かれたことから、窮地に立たされる。
監督は本作が監督デビューとなるジュリアス・エイヴァリー。本作の舞台と同じオーストラリアの出身で、乾いた気候と殺伐とした景色を背景に、先の読めない犯罪計画の顛末をサスペンスフルに語っていく。主人公とマクレガーの関係は父と子の絆をなぞらえているが、それをことさら強調せずに、犯罪ものとして気の利いた結末で締め括るところは好感度が高い。楽しみな才能がまたひとつ出現したと言えそうだ。(★★★1/2)
八十年代アメリカのTVシリーズ(本邦では「ザ・シークレット・ハンター」として深夜枠で放映)が下敷きというアントワーン・フークア監督の『イコライザー』だが、タイトルにあるequalizeは、不均衡を是正するという動詞で、転じて窮地に陥った人々の味方をする者という意味を持たせているようだ。先のTV番組の設定を引き継ぐ正義の味方で無敵のヒーローを、アカデミー賞男優のデンゼル・ワシントンが演じている。
ボストンのホームセンターで働く主人公の日課は、行きつけのカフェでの読書だった。ある晩のこと、カフェで顔見知りになった娼婦クロエ・グレース・モレッツが殴られている場面に遭遇し、アジトに一人乗り込んでロシアン・マフィアたちを一掃してしまう。しかし悪党たちの元締めは、トラブルの始末屋としてすご腕のマートン・ソーカスを町に送りこんでくる。主人公の正体は途中まで伏せられているが、ミステリの謎としてはいささか弱い。また、悪を懲らしめる痛快さはあるものの、ヒーローの超人ぶりはやや不自然で、興ざめを感じる。『レオン』を思わせる主人公と歳若い娼婦の関係も、クロエの出番が少なすぎるため不完全燃焼のまま終ってしまう。(★★)
まるでTVドラマシリーズの初回を観るような『ザ・ゲスト』。イラク戦争で長男を失った一家を、故人の戦友と名乗る若者ダン・スティーヴンスが訪ねてくる。家族は怪訝な思いを抱くが、ハンサムな笑顔で夫妻に取り入り、とびぬけた行動力と身体能力で次男の窮地を救うなど、男はみるみる家族にとけこんでいく。しかし彼には、とんでもない秘密が隠されていた。
男の正体をめぐってのミステリアスな展開は悪くなく、中盤まで観客の興味を釘付けにする。しかし、そう来たか、と謎が解けた瞬間にカタルシスが湧かないのは、それがまだ謎ときの入り口に過ぎないからだ。次回に続くとクレジットが出そうなエンディングとも相俟って、連ドラのコンペで落選したパイロット版を劇場用に仕立て直したのでは、と勘ぐりたくなる。監督と脚本は、『サプライズ』のアダム・ウィンガードとサイモン・バレットのコンビ。映像、演出ともに、それなりにレベルだとは思うのだが。(★★1/2)
映画の「タランティーノ大絶賛」は、小説の「キング激賞」と同様にインフレ気味のコピーだけど、不思議な吸引力がある。そのタランティーノが「今年のナンバー1」という折り紙をつけたと宣伝されているのが、イスラエル発のスリラー、アハロン・ケシャレス&ナヴォット・パプシャド監督の『オオカミは嘘をつく』である。
少女を暴行し、頭部を切断する残虐な殺人事件の容疑者ロテム・ケイナンを暴力で責め立て、休職を言い渡された刑事のリオール・アシュケナズィ。被害者の少女の父親ツァヒ・グラッドに拉致され、容疑者を自白させる手伝いを強要されるが、容疑者は酷い拷問にも「やっていない」と繰り返すばかり。父親の行動に疑問を抱いた刑事は一計を案じ、脱出を図ろうとするが。ミステリ的なシチュエーションを使ったブラック・コメディ。不器用な演出で先の読めない展開が黒い笑いを誘うが、真相が明らかになるラストは、お約束の域を出ておらず物足りない。ちなみに、本作の無間地獄を鷲巣義明氏が「戦争や紛争の縮図」とコメントしているが、成程そう考えると納得がいく。(★★1/2)
ハリウッドのスター男優二人がライバル関係にあるIT企業二社のCEOを演じるのが、ロバート・ルケティック監督の『パワー・ゲーム』である。上司のゲイリー・オールドマンの不興を買ったことが原因で、敵対する会社にスパイとして潜入することを承諾させられたリアム・ヘムズワース。企んだとおりに新しい上司のハリソン・フォードにも気に入られるが、スパイの任務はエスカレートし、ついには厳重にガードされた金庫に眠る極秘の新製品を盗まざるをえなくなってしまう。
巨大企業の権力者二人の間で板ばさみになって苦しむ主人公が、起死回生の一発逆転を狙う展開は型通りだが、その方法と結末はよく練られている。原作はジョゼフ・フィンダーの「侵入社員」(新潮文庫刊)。『ラストミッション』で美貌と肢体と度胸の良さを見せつけたアンバー・ハードが、本作でもしたたかな役柄を好演している。(★★★)
※★は四つが満点(BOMBが最低点)です。公開予定日の付記がないものは、既に公開済み