追悼

横田順彌さんの薫陶

北原尚彦

 最初に横田順彌さんとお会いしたのは、一九八〇年の書店イベント&サイン会のことでした。当方は十七歳の高校生。もう四十年近く前のことです。
 しかしわたしがSF界に入ったのは一九九四年に〈SFマガジン〉連載を始めてからのことで、その翌年、横田さんの誘いで日本古典SF研究会に入会しました。親しくお付き合いさせて頂いたのは、それからのことです。四半世紀ほどになりますが、古くからSFファンダムにいらした方、「一の日会」に参加されてた方などに比べると、付き合いは新しいほうです。でも、とても「濃い」付き合いをさせて頂きました。
 最初は隔月で古典SF研の例会でお会いするだけだったのですが、お引越しで本を運ぶ手伝いをしたのに始まり、本棚の整理をしたり、挙句の果てには横田さんの本の編集作業を手伝ったりするようになりました。
 プライベートでも、横田さんの代理で古書即売会へ当選した注文品の古本を受け取りに行ったり、一緒に古書街を歩いたり即売会へ行ったり。「この古本には○○が入ってるから、買った方がいいよ」などと、色々と教えてもらいました。そして横田さんがどんな本をいくらで買うかこの目で見たおかげで、知らず知らずのうちに古本知識が身に付きました。
 横田さんの本棚を見せてもらったのも、勉強になりました。初めて横田さんのお宅へ伺った際は、さぞかしレアな古典SFばかりがズラリと並んでいるのだろうと思っていましたが、いざ見てみると、何の本だか分からない、SFではない古書がたくさんあるのです。その当時は「これ何だろう?」と首をひねったものですが、何回も通ううちに、横田さんはそれらの大量の資料を生かして、明治文化研究をしたり明治SFを書いたりしていたのだ、とようやく理解できました。
 近年は、ネットをやっていない横田さんの代理で、ネットで古本を買う係も務めました。夜、横田さんから電話がかかってきます。
「北原くん、いつもいつも悪いんだけど、この本探してくれるかな……」
 横田さんから聞かされた書名や出版社名を頼りに、ネット上からその本を探すのです。見つかれば、値段を確認の上、横田さんのところへ直接届くよう手配しました。横田さんは「いつも手間かけて悪いねえ」と仰いましたが、このネット代理古本購入も、とても勉強になりました。
 横田さんに「弟子にして下さい」とお願いして、教えを乞うたわけではありません。しかしこういうのを「薫陶を受けた」というのでしょう。知らず知らずの間に、たくさんのことを教えて頂いたのです。古本の探し方、研究の進め方、聞いたこともない作家名や書名、買うべき値段……。
 これからもどんどん古本を買い、研究し、その成果を発表することが、横田さんに対する一番のご恩返しだと思っています。ですから今年、これまで以上に古書即売会に通って、古本を買っています。横田順彌さんと一緒のつもりで。