訃報

会員・藤田宜永氏

 会員の藤田宜永氏が、一月三十日に右下葉肺腺癌のため亡くなられた。六十九歳。藤田氏は一九五〇年福井市生まれ。早稲田大学中退後にフランスに渡り、八〇年までパリで航空会社に勤務。帰国後はフランス文学翻訳家としてレオ・マレの「サンジェルマン殺人狂騒曲」、ピエール・シニアック「ウサギ料理は殺しの味」などを翻訳。八六年に私立探偵錫切信吾が登場する「野望のラビリンス」でミステリー作家としてデビューした。大正時代を舞台にしたハードボイルド「モダン東京物語」(八八年)、フランスの暗黒街に生きる元プロ野球選手が登場する「ダブルスチール」(八八年)、最近まで書き継がれていた探偵竹花シリーズの「探偵・竹花とボディ・ピアスの少女」(九二年)などが初期の代表作だろう。
 第二次世界大戦前夜のヨーロッパを舞台に、子爵家出身の日本人の若者がモーターレースに命を懸ける超大作「鋼鉄の騎士」(九四年)で第四十八回日本推理作家協会賞長編部門、第十三回日本冒険小説協会特別賞を受賞した。
 その後、恋愛小説も多く手がけるようになり、『求愛』(九八年)で第六回島清恋愛文学賞、『愛の領分』(二〇〇一年)で第一二五回直木賞を受賞した。また一七年には「大雪物語」(一六年)で第五十一回吉川英治文学賞を受賞した。
 また第五十六、五十七回の日本推理作家協会賞長編および連作短編部門、第五十八回、第五十九回の同賞短編部門、評論その他の部門の選考委員を務めた。