新入会員紹介

入会のご挨拶

今井良

 この度、佐藤青南先生、深町秋生先生より推薦をいただき、エドガー・アラン・ポーの誕生日(1/19)に入会させていただきました、今井良と申します。皆様、どうぞよろしくお願い致します。
 これまで、ノンフィクションの分野で主に警察ものを発表して参りました。私はテレビ報道の世界に長く携わっておりますが、そもそも筆を執ろうと思ったきっかけは、警視庁記者クラブでの事件記者としての〝エキサイティング〟な経験からでした。
「ホシ、任同(任意同行)していますよね?」
「それについては否定も肯定もしません」
 夜な夜な、警察幹部官舎の応接室で繰り広げられる、担当記者との問答。やりとりは実際私が幹部と交わしたもの。禅問答のようですが、事件の情報につながるヒントは得られるのです。そう、一瞬目を逸らしたんです。わかりやすいですよね(笑)
 警視庁捜査一課担当記者としての日々は、フィクションを超える事件の連続で、アドレナリンが出っぱなしでした。担当記者は夜討ちに加えて、朝駆けも行います。
 ある朝駆けのときのこと。官舎前に集まった記者たちが口々に呟きました。
「遅いですね」
「何かあったか……?」
「捜査一課長の専用車が停まっていない!」
「隣の鑑識課長も留守みたいだ!」
「事件だ!」
 すぐさま、幹事社の記者が幹部に電話を架けます。
「一課長、いまどちらですか?」
「現場に向かってるよ」
 記者が携帯をスピーカーにしていたため、背後にこだまする捜査車両のサイレンの音から一課長が緊急走行で事件現場に臨場していることがわかったのです。場所を聞くと、各社の記者が一斉に駆け出し、ハイヤーに飛び乗って現場に急行していきます。他社に先駆けて独自ネタをいかに速く抜くか。事件取材のドッグレースがこうしてはじまったのです。
 実際の事件も実に興味深い事件でした。現場は東京西部のとあるビルの一室。
 早朝3時頃。ビルの前に静かに停車した高級外車。2人の黒ずくめの男が出てきます。男たちは迷わずビル横の通用口付近に向かいます。立ち止まったのは浴室の壊れた窓の前でした。侵入した男たちはソファーで仮眠を取っていた警備員をいきなり殴りつけます。
「暗証番号を教えろ」
 プロレスラーのような屈強な男がナイフを突きつけながら警備員に迫ります。
「言えない……」
 警備員が言い終えるや否や、男は切りつけました。
「死にたくねーだろ!」
 警備員は命の危険を感じ、暗証番号を告げます。
「4649(ヨロシク)……」
「ふざけた番号つけやがって!」
 もう1人の小柄な男は、奥の部屋の入口のテンキーで暗証番号を開錠。
 部屋には麻袋が所狭しと並んでいました。そう、ここは運送会社の事務所で、大量の現金、額にしておよそ5億9000万円が保管されていたのです。
 警備員を粘着テープで縛り上げた男たちは、札束が詰まった麻袋をつぎつぎと担いで中から開けた正面ドアから悠々と停車していた車に運び入れていきます。車は急発進し逃走。この時、現場付近の高校の防犯カメラは逃走する車をしっかり捉えていたのです。
 男たちはなぜ、ここに大量の現金が保管されていること、そして窓が壊れていたことを知っていたのでしょうか。警視庁捜査一課は徹底した初動捜査を展開。カギは防犯カメラの分析でした。男たちの逃走経路、そして時間を遡ったカメラ捜査により、2人組の素性が判明。いずれも前科がある元暴力団員、パチンコ店員の男でした。立ち寄ったコンビニの防犯カメラ、幹線道路のカメラを調べると、男たちは途中で逃走支援役が用意した車に乗り替えたのです。その車もカメラでたどっていった警視庁は、関東近県の自動車修理工場をアジトと突き止めます。そこからは芋づる式の犯人逮捕となりました。
 逃走支援役の男は曲者でした。関東北部の某県内のウイークリーマンションに身を潜めていたことを察知した警視庁。男が拳銃を所持しているとの情報を得ていたため、捜査一課特殊犯捜査係=SITを出動させました。完全武装の隊員たち。静かにマンションを取り囲みます。
「3、2、1、GO!」
 部屋の窓ガラスを割り、そこから閃光弾を投げ入れます。
「バン!キーン……」
 この閃光弾はその強烈な光と音で、一時的ですが判断能力を麻痺させます。
 なだれ込んだ捜査員らによって羽交い絞めにされた男。傍らには拳銃がありました。弾は装填されていました。被弾の危険性があったのです。
 事件の逮捕者は、総勢25名。主犯の元暴力団員が情報屋から入手した現金保管情報を元に企図した、計画的な犯行だったのです。さらに驚きだったのは情報屋は、その道のプロではなく、何と理容師の男でした。カネに困った元暴力団員がマフィア化し凶悪事件を起こした例でした。
 こうしたさまざまな事件と向き合った経験を、これからは小説作りに活かしていく所存です。いま取り組んでいるのは「元公安刑事であるカギ職人の物語」です。
 年内に発表させていただきます!どうぞよろしくお願い致します。