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入会のご挨拶

須藤古都離

 この度は日本推理作家協会の末席に加えて頂き、誠にありがとうございます。『ゴリラ裁判の日』で第六十四回メフィスト賞を受賞し、デビューいたしました須藤古都離と申します。
 最初に白状いたしますと、私はミステリーや推理小説をあまり読んできませんでした。好きなジャンルはSFとホラー、ファンタジーで、主に海外のものを読みます。
 本を読み始めたきっかけは、小学生の頃に何故か夜に寝られなかったから、というものです。どうしても寝付けず困っていたところ、母から「どうせ寝られないなら、本でも読めば?」と言われて本を読み始めたのだと、最近になって思い出しました。
 最初は図書館で適当に借りた児童書をなんとなく読んでおりましたが、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を読んだことで、突然自分の目の前に新たな世界が開かれたように感じました。作家という存在を意識したのはその時からです。エンデが入り口だったので、ずっと海外文学に親しんできました。好きな映画も音楽も海外のものばかりと、何故か日本の文化にほとんど興味を持たずに生きていました。小説の舞台も、一作目はカメルーンとアメリカ、二作目は日本と中国、三作目はアメリカの予定で、海外がほとんどです。ですが着物が好きなので、打ち合わせやインタビューの際には着物を着ております。
『ゴリラ裁判の日』はゴリラが原告となって裁判を起こす物語で、法廷ミステリーと言えなくはないものの、ミステリー要素は薄い作品だと自分でも思っております。同時にSF的な要素がありつつも、SFとしては強くないのです。ただ、ストーリー自体の面白さだけはあると思っております。
 先輩作家の皆様がどのように小説を書いていらっしゃるのか分かりませんが、自分にはあまり自分の小説をコントロール出来ていないように感じます。技術が足りないだけなのか、それとも書き方が変なのかもしれません。プロットを作っても、登場人物がその通りに演じてくれるとは限らないのです。何故か書く瞬間に裏切られます。私が考えていなかったセリフを話し始めたり、勝手に他の登場人物を意識し始めたり、もっと登場シーンを増やす様に要求されたりします。そんなこんなで、あらかじめ用意していたプロット通りに書けたことがありません。大物俳優に文句が言えない弱い映画監督のような立場だと、書きながら常々思います。
 コントロールが効かないので、本当に自分が創作しているのか、わからなくなる時があります。自分が考えて書いているというよりは、どこかでストーリーを目撃して、それを記憶の中から再現しているような感覚に近い気がします。記憶が頼りにならないので、辻褄をあわせるために細部を考えるような書き方です。自分が物語を作っている、というよりも、物語の第一発見者のようなものだと最近は思っております。
 メフィスト賞でデビューさせて頂いたからには、ミステリーを書きたいと思っているのですが、そのような理由もあって推理小説が書けておりません。トリックの作り方もまだ分からないのですが、たとえ完璧なトリックを思い付いたとしても、犯人がその通りに犯行をしてくれないのではないかという恐れがあります。孤島に建てられた洋館を用意して、密室トリックや固いアリバイを準備していても、その前にかっとなった勢いで杜撰な殺人を犯してしまいそうで怖いです。そんな犯人を尻拭いするように頑張ってミステリーを書いたとしても、途中で良心を取り戻して自白したりするかもしれません。探偵が推理を始める前に、重圧に耐えかねて告白してしまうかもしれません。そんなのミステリーにならないじゃないか、と書く前から断念している状況です。ミステリーを書きたいけど書けない作家の話なら書けるかもしれません。ミステリーにはならないかもしれませんが、それも面白そうです。
 登場人物の手綱をしっかり握れるような、強い作家になった暁にはミステリーに挑戦してみたいと思いますが、それがいつになるか分かりません。これから古今東西のミステリーに触れて勉強していきたいと思います。
「事実は小説より奇なり」とよく言いますが、現実にある不可思議な出来事に負けないような、奇抜な話を書いていきたいと思います。
 今後ともよろしくお願いいたします。