土曜サロン

「乱歩資料の現在」
土曜サロン・第一九八回
二〇一四年五月十一日

 今月は本多正一さんの発案・交渉によるスペシャルイベントとして、立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター(旧・江戸川乱歩邸)を特別に内部見学させていただいた。いつもの自由参加と違って完全予約制、協会員限定だが、めったに得られない機会なので、土曜サロンの常連でないかたがたの顔もちらほら。案内が協会報、ミステリー文学資料館ニュース(逢坂剛展開催中)に同封されていて、気づかず切歯扼腕した人もあるようだ。皆さん、協会からの郵便物は、こまめに開封しましょう(総会の委任状返送もお忘れなく。もちろん出席いただくのも大いに結構です)。行きそびれてもツイッターが使える人は、芦辺拓さんが許可を得て撮りまくった写真が公開されているので御覧ください。
 まず、数々の伝説を生んだ旧乱歩邸時代の状態でほぼそのまま残されている応接間(ソファは貼り替えられていた)に一同案内され、配布された一九三四年の転居当時の平面図が『貼雑年譜』より複製されたのを見ながら、江戸川氏令孫の平井憲太郎氏より往時と現在との違いなどお話を伺う。「この応接間が出来たのは一九五八年です。祖父が亡くなる六五年までより、その後のほうが遥かに長くなりました」
 そのあと、「幻影城」という誤った呼称で喧伝されることも多い土蔵(書庫)に入れていただき、普段は見ることが叶わない土蔵二階(生前の著書をすべて収めた自著箱二十一函と徳川期の和本を収蔵)にも代わる代わる拝観(?)を許される。厚かましく何百回もお邪魔した私でも久しぶりで新鮮味があったのだから、初めて入ったらさぞ感激が大きかっただろう。
 土蔵に増築されていた付属部分は傷みが激しいので取り壊され、そちらにあった蔵書は、かつて御家族の住居だった部屋を新たな書庫にして移管されていた。スペースを広げたぶん、以前より整然として見やすい。案内してくだすった資料調査研究担当職員の落合教幸さんらの努力の賜物だろう。研究所然としているのではないかと案じられたが、旧宅の面影が残されているのも嬉しいことだった。しかし見学者のうち重症の書痴患者は、初めて見るような探偵小説本のほうに我を忘れて、ここがどこだかも忘れていたのではないか。あっという間に二時間ほど過ぎ、去りがたい想いで一同辞去したのであった。
 格別な便宜を図ってくだすった落合さんはじめセンターのかたがた、コーディネートしただいた本多さん、ありがとうございました。
(出席者)芦辺拓、石井春生、郷原宏、笹川吉晴、長谷川卓也、響由布子、本多正一、松坂健、水島裕子、桃さくら、山口恵以子、新保博久(文責)