新入会員紹介

入会のごあいさつ

吉川永青

 はじめまして、このたび日本推理作家協会に末席を頂戴いたしました吉川永青です。デビュー作の刊行から、そろそろ丸四年となります。昨今では仕事も増えて参りまして、忙しいことが有難いと感じながら日々を過ごしております。

 子供の頃は読書が好きで、児童小説に始まり、推理小説、明治の文豪たちの著作、果ては百科事典や辞書まで読み物としておりました。将来は何になるかという問いにも「本屋」と答えていたような次第です。現在に至って自著を書店様に並べていただく立場となりましたが、幼少の頃に言っていたことを思えばニアリーイコールの範囲に収まっているのかな、などと思います。
 そうした読書好きの子供は、中学生の頃からはあまり読書をしなくなってしまいました。読書以外の遊びの方が楽しく思えてしまったからでしょう。中学校、高校とひたすらギターを弾いておりました。ギターの演奏も今となっては趣味の端くれに追い遣られ、技能も錆び付いております。これとて自らの血肉になっていると思ってはおりますが、もしもこの頃に読書の習慣が続いていたら、現在の著作にもずっと厚みが出たのかも知れない……という思いも否定できません。後悔先に立たず。そして後を絶たず。新作のたびにその題材を勉強して書くような始末です。

 さて私は現在、歴史小説を主戦場としております。少年時代に読んでいた中に推理小説が含まれていた(しかも歴史小説は含まれていない)ことを考えれば、どうしてミステリーに進まなかったのかと疑問に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 答は簡単で、推理小説の「推理」の部分が非常に苦手なのです。読者として接している分には謎解きやどんでん返しで「おお!」と喜んでいれば良いのですが、書く立場になるなら、それじゃダメよね……と。
 しかしながら、最近になって歴史小説もある種のミステリーかも知れないと考えるに至っています。歴史作家諸氏には頷いてくださる方もいらっしゃるかと思いますが、歴史という言葉に必ず付いて回る「史実」なるものが、実は結構あやふやなものではないかと思えるからです。
 歴史とは勝者が後世に伝えるものであり、勝者にとって不都合なことは伏せられたり、或いは抹消されてしまったり、ということが往々にしてある不自由な代物です。良く知られたところでは隣国・中国でも古代に於いて焚書されたものが多くあります。
 そうした、必ずしも正確に伝わっている訳ではないものを以て、現代に生きる我々は過去の事実を推し測るしかありません。もちろん、各種の文書や研究によって事実と確定される事績は数多くあります。それでも直接的に確定する材料に乏しければ、傍証から推測するに留まる部分はどうしても残ってしまうのが実情でしょう。
 歴史小説は、その推測の中に「もしかしたら」と新しい解釈を「探求」していく作業だろうと考えております。探求する、即ち(ものすごく広義の)ミステリーであろうという拡大解釈ですね。それだと世の中の全てがミステリーになってしまいそうな気もしますが。

 などと冗長なことを述べて参りましたが、探求する楽しみの上に私の執筆が成り立っているのは紛れもない事実であります。今後ともそうした楽しみを感じながら、読者の皆様にも同じく楽しんでいただけるものを世に送り出していこうと思う次第です。
 会員の皆様、末永くよろしくお願い申し上げます。