松坂健のミステリアス・イベント体験記

健さんのミステリアス・イベント探訪記 第54回
松本清張さん、没後23年でもTV番組の目玉(3月12、13日テレビ朝連続放映)
北区内田康夫ミステリー文学賞も14回目(3月19日 北区・北とぴあさくらホール)

ミステリ研究家 松坂健

 日本の推理作家のビブリオグラフィで、これ以上浩瀚なものは今後出ることはないだろうと思われるのが、森信勝編『松本清張索引辞典』(日本図書刊行会 1万5000+税)だ。
 とにかく、物理的な形になっている清張さん自身の本、エッセイ、共著、映像、音声などを、総ざらいしたリストだ。同じ作品でも出版社、版が違えば全部収録。その徹底ぶりはまさに巨人的な仕事だ。ちなみに、ブックフォームになっている著書、共著は編年体で各書目に番号が付せられているが、1番が昭和28年4月刊の『年刊日本文学昭和二十七年度』(筑摩書房)で、最後が平成27年5月の『山中鹿之助』(小学館)。連番は1294。
 そして、編者の森さんも語っているが、清張作品の映画化、テレビ化の勢いは没後23年も経っているのに、いっこう衰えない。それが凄い。この本には清張原作映像・音声年次別刊行索引がついていて、これはビデオやDVDテープなど、これまた物理的な形になっているものだけを収録しているが、総点数が146点、清張さんが出たドキュメンタリー・清張作の朗読CDなどが60点、計200点以上ある。ものすごい量のメディアミックスぶりだと思う。
 つい、先日もテレビ朝日が二夜連続で、清張二大旅情ミステリー放映ということで、大々的な宣伝を行っていた(写真参照)。
 3月12日土曜9時の『地方紙を買う女』(田村正和・広末涼子主演)と3月13日同9時の『黒い樹海』(北川景子・向井理主演)の二作だが、大手新聞各紙にフルカラー・タブロイド版の宣伝をはさみこむお金のかけぶり。清張作ということだけで、いまだにこれだけ賑々しく番組が作られるのだから、清張死してなお現役、という印象だ。ついでに、筆者の感想を少し述べておくと、『地方紙』はこのインターネットの時代に、地方で起きた事件の推移を把握したくて地方紙の購読をするという設定自体に無理があるという印象だ。好感がもてたのは『樹海』。思いがけない時に、思いがけない場所で、思いがけない人に会ってしまったことから始まる悲劇。清張さんは、このモチーフをよく使うが、映像化でもそれなりに説得力があって、佳作の域に達している。

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 清張さんと同じく大衆の支持を幅広くもつのが、内田康夫さん。
 彼の作品に登場する名探偵、浅見光彦が東京都・北区の住民という設定から、内田さん自身が北区アンバサダーに任命されることになり、北区の知名度、文化イメージ向上のために設置された賞が、「北区内田康夫ミステリー文学賞」だ。
 地域起こしの一環として、オリジナルミステリーの募集をするイベントは、今では島田荘司さんが主宰する福山の「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」などがあるが、この北区がはしりだろう。2002年に創設され、今回で実に14回目を数えている。
 この賞は短編の募集が特徴。400字詰めで40~80枚が基準。北区の風物が取り入れられていることが望ましいが、選考基準にはなっていない。
 毎回200編以上の応募があるとのことで、毎回5編程度の最終予選作品が残り、毎年3月、北区・王子の北とぴあさくらホールで大々的な最終発表が行われる趣向だ。
 今年の第14回受賞発表会は3月19日に行われ、最終候補作5作品のシノプシス紹介の後、大賞、区長賞、審査員特別賞の受賞者指名が行われた。大賞のみ実業之日本社刊行の月刊ジェイ・ノベル4月号に掲載の段取りだ。なお、選評は通常、内田康夫氏自身が行うのだが、体調不良で欠席されていたので、ミステリー評論家で一般財団法人内田康夫財団の理事でもある山前譲氏が担当した。
 今年の大賞は島村潤一郎『小さな木の実』で、暗号解読をテーマにした爽やかな後味の小品だった。
 この授賞式では、毎回、その前年の大賞受賞作を劇化したものの上演が行われるのも特徴になっている。このイベント、参加費が無料ということもあり、1000名収容の大ホールがほぼ埋まるのは、この演劇上演の効果もあるだろう。
 今年は前年第13回の受賞作、南大沢健『二番札』を世田谷シルクという劇団が脚色・上演を担当した。北区は演劇振興にも熱心なところで、こういう活動がミステリファンの底上げを図っていることは、大いに評価していいのではないかと思う。
 推理作家協会賞にも、たとえば清張作品を精力的にテレビ化する局とか、この北区であるとか、ミステリイベントを顕彰する部門があってもいいのではないかと思うのだけど、どうだろう?