囲碁

名人の滋味

竹本健治

 推協囲碁同好会の九回目の大会。上位クラスはオール置碁制のトーナメントで推協名人を争う。今回の参加者は十一名。
 さて、僕の一回戦の相手は新井素子さんの旦那さんの手嶋政明二級。手合いは向こう九子。九つも石を置かれると、相手の悪手や緩手を待ちながらぼちぼちやっていくしかない。淡々と手を進めるうちに徐々に形成が縮まり、結果はかなりの大差で勝ち。トーナメントは初戦に勝たないと始まらないので、まずは上々の滑り出し。
 二回戦が準決勝で、相手は前回優勝の郷原宏六段。向こう二子。
とにかく郷原さんは碁に熱心で、初めてお会いした三十年前から着実に腕をあげてきているが、正直二子ではまだまだ負けるわけにはいきません。序盤はちょっとやり損なったけど、その後は随所でポイントをあげて、最終的にはこれもかなりの大差に。
 さて決勝は西上心太一級と、向こう九子。西上さんは将棋では高段者で、崩れない強さがあり、勝負どころもわきまえているので、九子も置かれちゃかなわんなと思っていたが、中盤過ぎまで徐々に形成が縮まるものの、やはりなかなか追いつきそうにない展開に。ところがどうやら相手に思った以上の楽観があったらしく、終盤で甘い手が重なって、終わってみるとこちらの六目勝ちだった。
 ということで、僕が第九期推協名人に。これで都合三度目かな。
 ここでちょっとワタクシ事を。あまり大きな声では言えないのだが、現在僕が住んでいる佐賀県は全国的に見て囲碁の層が手薄く、そのおかげで、僕程度の実力でもけっこう県大会の上位に食い込めるのだ。好成績をあげられるのでそれがまた励みとなり、出来る限り各種の県大会に出場している。そんな場慣れの効果が今回もいい具合に働いたかと、振り返って思った次第。
 ともあれ、規模の大小にかかわらず、優勝というのはやっぱり嬉しい。何度味わってもまた格別。何しろ、今後一年間は押しも押されもせぬ「名人」として過ごせるのだからね。