新入会員紹介

入会のご挨拶

徳永圭

 このたび推理作家協会に入会させていただきました徳永圭と申します。ご推薦くださいました真保裕一先生、鈴木輝一郎先生にこの場をお借りして御礼申し上げます。
 私がミステリーと出会ったのは、今から十七年前、高校の図書室でのことでした。正確にはもっと幼いころに、何かしらの子ども向け推理小説を読んだことがあったのかもしれません。しかしガツンと頭を殴られたような、「こんな面白い小説が世の中にあったのか!」と衝撃を受けたのは、間違いなくそのときでした。
 入学後にふらっと立ち寄った図書室の、窓沿いの書架に並んだ白い背表紙たち――。
 それが「ノベルス」と呼ばれることも、「新本格」と言われるブームがあったことも当時は知りませんでした。小学生のころから少女漫画家になりたくて、読むものと言えば漫画雑誌やコミックスばかり。根っからの文学少女というわけではなく、ただ、窓際の目立つ位置に並んでいたから――思い返すに、その配置はミステリー好きの図書委員の策略だったのかもしれない――手に取ってみたのが始まりです。
 次々に死人が出ることも、奇抜な状況設定も、一本背負いのごとく鮮やかなどんでん返しも……ミステリーを読み慣れていなかった私にはすべてが新鮮で、あっという間に虜になりました。
 ほどなく読書好きの友人もでき、「私はあの探偵が好きで~」「あのシリーズが面白くて~」と、休み時間にはミステリー談義に花が咲きました。そして元来ミーハーな私のこと、「某探偵と同じ町に住みたい」というきわめて不純な動機で志望大学を決めました(今で言う「聖地巡礼」のノリでしょうか。聖地に住もうとは、我ながら図々しいですが)。
 真の理由は親や担任に隠したまま奇跡的に第一志望の京大に滑り込み、その勢いで、入学後には推理小説研究会の部室に向かいました。
 京大ミステリ研といったら、出身作家の顔ぶれを思い描くだけで目眩がしそうなほど。ここも私にとっては聖地同然で、緊張でガチガチになりながら訪ねたのですが、なぜか行くたび鍵がかかっていて、部員のどなたにも会えず。看板はしかとかかっているのに、よほどタイミングが悪いらしい。
 そうだよな、自分で小説を書いているわけでもないし、ただのミーハーだし……としだいに心理的ハードルが高くなり、結局、まったく畑違いのサークルに(部室にあった大量の漫画につられて)所属してしまったのでした。
 あのときミステリ研に入っていれば、と、正直思わないでもありません。部員同士で刺激を与え合い、当時から小説を書き始めていれば、もっと早く腕を上げられたかもしれません。
 けれども大学入学を機に、本腰を据えて漫画の投稿に打ち込んだ四年間は、回り道ではあれど、無駄ではなかったのだと思います。その数年後、漫画家になるという夢を断念したものの創作欲は捨てきれず、それならば、とGペンをキーボードに持ち替えて書いた小説――主人公は漫画家志望の女性でした――でデビューできたのですから。人生、何がどう転ぶかわかりませんね。
 そのデビュー作こそコメディタッチの作品でしたが、やはりミステリーへの憧れは抑えきれず、近作ではサスペンスにミステリー的な仕掛けをほどこしたりもしています。一度はすれ違ってしまったミステリーに回り回って戻って来られた気がして、感慨もひとしおです。
 思えばデビューからのこの五年間は、デビュー前の助走が少なかったこともあって、自分の軸が定まらずに悩んでばかりの日々でした。
 自分は何が書きたいのか、書けるのか。小説を通して何を伝えられるのか。
 何か表現せずにはいられない、業のようなものが内に在るのを感じつつ、それを支えられるだけの実力を早く身につけたくて、もがくようにここまで来た気がします。
 しかし小説を書いている限り、そして目標とする場所が高くなっていく限り、その焦燥から逃れられる日はきっと来ないのでしょう。
 真摯に、愚直に、物語を紡いでいく。
 自分にできることはそれしかないのだと、このたびの入会を機に、あらためて自分に言い聞かせています。
 若輩者ではありますが、今後ともご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。