新入会員紹介

決算報告とポートフォリオと中期経営計画

喜多喜久

 皆様はじめまして。喜多喜久と申します。
 私は『このミステリーがすごい!』大賞出身で、デビューは二〇一一年ですので、この原稿が協会報に掲載される頃には、作家生活七年目に突入していることになります。
 デビュー以来、製薬企業の研究者と作家の二足の草鞋生活を送ってきましたが、二〇一七年三月末をもって会社を退職し、晴れて専業作家となりました。推薦人をお引き受けくださった、西上心太さん、乾緑郎さん、それから、入会に際してご協力いただいた宝島社のSさんに、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。
 さて、せっかくこうして自己紹介文を載せていただくわけですし、単に自分のことを知ってもらうだけではなく、できれば未来の仕事を掴むためのアピール――つまり、読み手に「喜多喜久」への投資を促すような内容にしたいと思います。
 とはいえ、「総売り上げ部数一〇〇〇万部! 月産一千枚! 全作品が重版! 全作品が映像化!」的な嘘を書くとコンプライアンス違反になる……というか自分の首を絞めることになりますので、企業の決算報告書のように、正確かつ冷静に自己分析をしてみたいと思います。
 私の現在までの最大のヒット作は、『化学探偵Mr.キュリー』シリーズ(中央公論新社)です。二〇一七年四月現在、五作目まで刊行されています。
 二〇一六年度の印税・原稿料の合計を見てみますと、キュリーシリーズが全体の68%を占めており、やはり収入の中心的な柱になっていることが分かります。
 しかしながら、シリーズものというのはどんな作品であれ、巻を重ねるごとに初版部数が減るものでして、メディアミックスなどの追い風がない限り、必然的に売り上げは減少していくことになります。実際、トータルの収入そのものは二〇一五年比マイナス5%と微減です。このままだと、年を経るごとに収入は減少の一途をたどることが予測されます。
 この状況は、自分の馴染みのある製薬業界とよく似ています。日本には薬価制度というものがあり、薬の値段は二年に一度の改定で数%ずつ安くなっていきます。また、特許による保護期間が終了すれば、半額以下でジェネリックが販売され、オリジナルの医薬品の売り上げは大幅に削られます。つまり、効果の高い良薬であっても、ピークを迎えたあとは売り上げが低下し、必然的に会社経営は苦しくなっていきます。その状況を打破するために、製薬企業は積極的に研究に投資を行い、次の主力商品となるような薬剤の創出に力を入れています。
 作家も同じではないかと思うのです。収入を安定させるためには、柱となる作品が複数、かつ継続的に更新されていくことが望ましいです。
 今はまだこの状態を実現できていません。すなわち、ポートフォリオの充実が目下の自分の課題であります。最近は作風の違うものを定期的に刊行しながら、次なる主力シリーズを模索しております。
 そんなことをしなくても大丈夫、と言ってくださる方もいますが、なるべく物事を悪い方に想定するのが自分のスタンスです。昨今の出版業界の状況を考えますと、現状維持の心意気ではいずれ苦しくなるのではと危惧しています。しかも、今や専業作家となり、印税・原稿料が唯一の収入源となったわけですから、少しでも売り上げ維持、あわよくば拡大を目指すくらいでないと、十年、二十年と生き延びるのは難しいのではと思っています。
 今後三年間、二〇二〇年までの中期経営計画としましては、収入の総額はなるべく維持しつつ、キュリーシリーズへの依存度を50%未満とし、少なくとも30%を稼げるような、別のシリーズを立ち上げ、育成していきたいと考えています。
 ということで、簡単に今後の方針をまとめますと、「ガンガン書くし、ガンガン売っていきたいんで、どうぞヨロシク!」となるでしょうか。
 仕事を入れる余地はまだまだありますし、話を作る力も枯れてはいないと思っています。ご興味のある方は、ツイッターでも出版社経由でも構いませんので、ぜひコンタクトを取っていただけたら嬉しいです。
 自分は大阪府在住ですが、面識のある作家さんは皆さん関東にお住まいなので、普段は一人で寂しく仕事をしています。酒席で創作の話をするのは楽しいものですし、今後、関西にいらっしゃる作家さんと交流を図っていけたらな~と思っています。(余談ですが、まさかこんなに多くの方が連絡先を載せているとは思いませんでした……。近いうちに自分も公開したいです)
 長ったらしい上に堅苦しい自己アピールにお付き合いいただき、ありがとうございました。
 業界関係者の皆様、また、本協会の先輩の皆様、一年でも長く小説家を続けたいと思っていますし、また、日本推理作家協会の会員であり続けたいと願っています。今後とも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。