新入会員紹介

入会のご挨拶

市川哲也

 私、市川哲也はすでに退会している。入会早々そんな気分です。
 なぜか。昨年から自身の財政状況が極めて逼迫しております。収入と支出が拮抗。いや、支出が上回っている。貯金は目減りするばかり。後述する原因からなのですが、節制すれば抑えられはします。しかし、これを契機に改めて将来を見つめなおしてみました。浮かび上がったのは、賃金の低さがシャレにならない領域であり、金銭的な将来も暗いという現状です。テレビの貧困特集などどこか他人事で見ておりましたが、現実感を持って迫ってきました。協会Twitterでは入会のメリットとして、文芸美術健康保険組合に入れます、とありますが、残念ながら入りたくても入れません。そんな私にとっては年会費が重い。重い。
 金銭的理由での退会覚悟はいつでもできている、いや、すでに退会している状態にある。入会しながら退会している。シュレディンガーの新入会員と言えます。(言ってみたかっただけです)
 ゴルフ、麻雀、囲碁、将棋、ソフトボール。いずれもやっていませんし、やっていたとしても一時間に一本しか電車がないような四国の田舎町在住ゆえ、サロンへの出席も絶望的、口下手コミュ障のため親睦会などへの参加もまずありえないでしょう。お前はなにしに推理作家協会に入会したんだ、とどこからか声が聞こえてきます。
 入会理由は、ひとえに推理作家協会に興味があったからです。推理小説を読み書きしていれば知らない者はいないわけで、まがりなりにも推理小説を書く立場からずっと興味がありました。自作の登場人物にも、日本推理作家協会賞を受賞させて喜ばせたほどです。デビューしたからには一度は会員になってみたい。生粋のオタクゆえのオタク的行動原理からでした。
 この度、大倉崇裕さんからお誘いを受け、チャンスは今しかないと清水の舞台から飛びおりました。私が退会したときは、ああ、ついに財政破綻したかと笑っていただければ幸いです。
 いつ退会するかもしれない身の上ですので、それまでになにか足跡を残したい。
 もちろんミステリに関しての足跡を、と言いたいところですが、並みいるミステリ猛者の方々に語るほどの知識や体験は持ち合わせていません。協会Twitterでの呼びかけもあり、多くの新入会員がいるようですので、安心してそちらにお願いします。
 では、私が残したい足跡とはなにか。ふたつあります。
 ひとつは、私の財政を逼迫させた原因であるハロー! プロジェクト(モーニング娘。等で有名なアイドル集団)の布教活動です。昨年虜になり、ほんの数か月前まで将来を悲観するほどには銭を突っ込みました。これほど沼にハマったのですから、一人で沈むのはもったいない。来るべき日までには、一人でも二人でも同胞を増やす所存です。この分野では大森望さんという先達がいますが、機会があればコミュ障の壁を壊してプレゼンしたいと思います。
 二つ目は、おそらく先達はいないので、会員唯一のギャルゲーシナリオライター出身として(発表作品はごくわずかですが)ギャルゲーの名作をおすすめしたいです。同じ文章を扱うコンテンツでありながら下に見られがちですが、なかなかどうして。ミステリ的に非常におもしろい作品があるのです。
 筆頭は『Ever17 -the out of infinity-』
 あまりにも有名なのでご存じの方も多いと思います。これはもうどんなミステリ猛者にもすすめられる作品です。小説では実現できない、ノベルゲームの形式、容量などがあればこそ達成された試みは拍手しかありません。
 続いて『G線上の魔王』です。
 ミステリとして瑕疵がないとは言いませんが、補ってあまりある魅力的なキャラクターとストーリー。そしてミステリ。このバランスや配合は私の目指すものであり、会員の皆様にもおすすめできます。プレイ後、もし興味がわきましたら、同じシナリオライターさんの『車輪の国、向日葵の少女』もぜひ。罪を犯すと「一日が十二時間しかない」「大人になれない」といった義務を負わされる世界での物語です。特殊設定ものとして楽しめるのではないでしょうか。
 ノベルゲームは一作で長く楽しめますし、小説に近い形式でありながらボイスやイラストがついており、感情移入度が極めて高いです。小説や映画の合間に、今回挙げた中の一作でもプレイしてくだされば、入会した甲斐があります。
 わけのわからない自己紹介でしたが、そのとおりの人間ですので、退会するまではよろしくお願いいたします。なるべく長く滞在できるようがんばります。