入会のご挨拶
はじめまして。このたび、日本推理作家協会に入会させていただきました、斎堂琴湖と申します。第二十七回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞、受賞作『燃える氷華』(『警察官の君へ』改題)が二〇二四年三月に光文社から発売したばかりの新米です。まずは、入会にあたり、ご対応くださった関係者の皆様に、この場を借りて御礼申しあげます。どうもありがとうございました。
さて、デビューしたと言ってもつい先日のこと。長い投稿生活ではたくさん原稿を書きましたが、本になったのはたったの一冊ということで、まだまだ作家と名乗るのもおこがましい。なにしろミステリー系の新人賞、候補六回めでの受賞。もはや自分は永遠の候補どまりで、受賞することなんてないんじゃないかと半分思っていたところでした。
昨年十月の本選考当日、受賞のご連絡をいただいたときも正直冗談かと思いまして、たしか私の反応は「ありがとうございます」よりも先に「え、嘘」だったような。
その後出版社を訪問して、メディアに掲載する写真を撮影したり、編集部にご挨拶したり、受賞作の改稿についての話をしたときも、まだ内心「ドッキリでは?」との疑いを隠せない。年末年始にゲラ作業をしていても、「これ本当に本になるのかな?」と疑い半分。そろそろ信じて、自分。
という本心は秘密にして、一応周囲には受賞したよ、本が出るらしい(出る、と断言はしない)と言っていたので、「おめでとう」「ありがとう」の会話が増えはじめ、そのたびにどうしよう、と内心びくびく。極めつけは、会社で有志がやっている社内ラジオにゲスト出演してしまったものだから(社内の友人経由で有志にばれた)、仕事中におめでとうのチャットの嵐。ウン十年勤めている会社なのと、ウン百人いる本部内に向けてエクセル指南のメーリングリストなぞ書いて発信している経緯もあり、そこそこ社内に知りあいが多かったのです(そんなわけでエクセルのご相談に乗れます。でもワードは敵認定)。しかしここまで宣伝してしまった以上、本が出なかったら洒落にならない。
そして迎えた発売日近辺。もちろん出版社から実物は送られてきたし、ネット書店には掲載されているし、友人から買った報告も受けたけど、当の本人は在宅勤務メインのひきこもり生活なので書店に出向けず、発売日翌日の授賞式を迎えてもまだ一ミリくらいは疑っている始末。むしろこんな壮大なドッキリだったら小説のネタになっていいんじゃないかな、と膨らむ妄想。後日本当に書店に並んでいる自著を見て、やっと数ヶ月の疑いがきれいに晴れました。遅い。
振りかえってみれば、この数ヶ月、「おめでとう」と言われまくっていました。どうもありがとうございます。できれば誕生日にもこのくらいおめでとうが欲しいなと思いつつ、我に返ってみればもはや別に祝うほどの歳ではなかったという。
そしてほっと一息ついたとき、手許には日本推理作家協会の入会案内がありました。おお、あの日本推理作家協会! 私が日本推理作家協会という名前を最初に認識したのは、おそらく、協会五十周年の文士劇『ぼくらの愛した二十面相』だったと思います。あのとき実は客席で楽しむ側におりました。発売日にどこぞのぴあの店頭に並んでチケットを取ったとか、当日会場の有楽町近辺で本とは関係ないオタ友と偶然会ったとか、いろいろ覚えています。記憶違いでなければ、会場ではお客さん一人一人にランダムに直筆サイン本が配られていましたよね。私の手許に来てくれたのは、二人組でデビューなさったあの先生の本で、やったぁと思ったものです。
ともあれ、そんな日本推理作家協会の末席に加わることができて、ここまで頑張ってよかったなあとしみじみ思っております。ただ協会員というのもおこがましいので、まだ協会ファンクラブ会員、くらいの扱いでもいいのですが。
ところで、日本ミステリー文学大賞新人賞は毎年五月十日が締切となっています。時期的にいつもゴールデンウイークに投稿作の追い込みをかけていたのですが、気がつけば今年も普通に原稿仕事をやっていて、去年までとほとんど変わらない。受賞すればゴールデンウイークは大手を振って遊べると思っていたのに遊んでいない。なるほど、よく考えてみれば、私は普段会社員なので、結局土日祝日にはちょっとまとまって原稿書けるぞわーい、なノリはちっとも変わらなかったのです。授賞してからお会いさせていただいた先輩作家様や編集者様から言われた、「賞は通過点だから」というお言葉があらためて身に染みたこの春、「おめでとう」「ありがとう」も一段落ついたので、自称協会ファンクラブ会員を脱却すべく、身を引き締めて今後いっそう頑張りたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。