入会のご挨拶にかえて
みなさま、こんにちは!
このたび日本推理作家協会に入会させていただきました、森川智喜(もりかわ・ともき)ともうします。
一九八四年、香川県生まれです。二〇一〇年に『キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人』(講談社BOX)を発表いたしました。出版社さんからご支援をもらって、ほかにも、いくつか拙作を発表しております。
そのご縁で入会させていただいた次第です。
由緒ある日本推理作家協会の存在は、前々よりぞんじあげておりました。
ぼくにとって日本推理作家協会のイメージは──元「探偵作家クラブ」ということで──犯人当て例会でした。日本ではじめて(?)本格的な犯人当て例会をおこなった組織、というイメージでした。
第一回犯人当て例会で発表された作品『妖婦の宿』(高木彬光)、大学生のときに読みました。
ごぞんじだと思いますが、『妖婦の宿』には、作中の語り手なる松下君が、犯人当て例会の参加者たち(探偵作家クラブのメンバーたち)におそれをなす場面があります。「鬼ども」といわれるような彼らを満足させる犯人当て小説を自分が書けるものか、とおじけづくのですね。
この箇所、初読時はとくに印象に残らなかったのですが、探偵小説史をすこし勉強したあとに再読すると、
「そうだ。探偵作家クラブって、アノ、探偵作家クラブのことじゃん……。だから、ここで松下君がびびっている『鬼ども』っていうのは、要は、歴史に名を残したXX先生とかXX先生とかのことか。そりゃ、びびるわ!」
びびった松下君は参加者たちのことを
「鬼は鬼でも背中に毛が生えて、苔のむしているような、閻魔に近い権威ぞろい」
とまでいっています。とても印象に残りました(笑)。
(厳密には、作中での例会と、現実世界での例会とはイコールではありませんが)
そして、自分のつたない挨拶文が会報にのるなんて……と、ぼくはぼくで、現在進行形でいま、びびっております。
おこがましいかもしれませんが、松下君の気持ち、わかるような気がします。
ぼくは大学生のとき、推理小説研究会に所属していました。そこで定期的に、犯人当て例会がありました。
ある意味「思い出」でもありますから、犯人当ては好きです。
ぼくたちがやっていたのは「会員が持ちまわりで担当者となって、犯人当て小説をつくる。ほかの会員たちがそれを解く」、すなわち、探偵作家クラブのものを模範とした例会です。ただし、昔は探偵作家クラブのものと同じく朗読形式だったそうですが、ぼくの世代では、プリント配布形式がスタンダードでした。
犯人当て例会では、数々のおもしろい場面が見られたのを覚えております。たとえば……
(問題編だけが配布されて、三十分ほど時間がたったあと)
参加者A「犯人、ぜんぜんわからないな。これ、ちゃんと伏線をはってる?」
担当者「もちろん! 伏線、腐るほどはってますよ」
参加者A「なんと。伏線が腐っておる!」
参加者B「使いモンにならない伏線しかない、ってことだろ?」(一同、爆笑)
……こんな感じです。文字にしてもうまく伝わらないのを承知で書いてみました、スミマセン。
各々の芸を披露しつつ、みなで愉快な空間をつくる──ということで、ぼくは犯人当て例会のことを「歌を歌うかわりに、犯人を当てるカラオケ」だと考えていました。ある種のコミュニケーションゲームだな、と、いまでも思います。
そんなふうにして遊んだものです。先に述べた通り、『妖婦の宿』を読んだのもそのころでした。
とても楽しかったです。
以上、つたないながら、ご挨拶にかえまして。
犯人当てとあまり関係のないところだと、とくに好きなのはシャーロック・ホームズです。愛読書というのでしょうか。十二歳ごろに読んで感銘をうけて、いまでもよく再読しています。
どうぞ、よろしくお願いもうしあげます!