日々是映画日和

日々是映画日和(69)

三橋曉

 フランス発の犯罪映画といえば、監督、脚本からプロデュースまで、やたらに精力的なリュック・ベッソンばかりが目立つようだが、個人的には「すべて彼女のために」、「この愛のために撃て」と、捻りの効いた作品を連発するフレッド・カヴァイエに注目している。「すべて」は、ハリウッドで「スリーデイズ」としてリメイクもされた。今月は、そのカヴァイエの二○一四年の新作『友よ、さらばと言おう』から。

 南仏の港町の警察官ヴァンサン・ランドンとジル・ルルーシュは、家族ぐるみで仲のいい親友同士だった。しかし、二人一緒の帰宅途中に飲酒運転で追突事故を起こし、ヴァンサンは懲戒免職となり服役する。そして出獄後も、子どもら三人を死なせた事故への悔恨から立ち直れず、幼い息子を残したまま家を出てしまう。その頃、街ではギャングの仕業と思われる残虐な殺人が続発していた。ジルらの捜査も空しく犯行は続くが、たまたま殺しの現場を目撃してしまったヴァンサンの息子が命を狙われることに。
 畳みかけるように現在と過去のエピソードが錯綜するイントロ部分に戸惑いと眩暈を感じるが、やがて物語は子どもの命を狙う犯罪組織と、彼を必死に守ろうとする父親と元相棒に焦点を合わせた骨太いサスペンス劇に収斂していく。追いつ追われつのドラマは、後半さらに加速し、疾走するTGV(高速列車)の車上へと舞台は移っていく。このサスペンスだけでもサービス精神は十分だが、クライマックスには観客を唸らせる展開もあって、さすがにカヴァイエ。本作の原題「謝罪」と呼応する幕切れの余韻が胸をうつ。(★★★1/2)

 冒頭で二つのストーリーが並行する『監視者たち』も、最初は観客を少し混乱させるかもしれない。しかし、組織VS組織の対決というテーマに直結しているだけでなく、後の展開に向けての絶妙のプロローグとなっている点が見事だ。記憶力抜群の新米の女性捜査官ハン・ヒョジュは、厳しい実地試験をクリアし、特殊犯罪課に配属された。ベテラン捜査官ソル・ギョング率いる監視班に加わっての最初の仕事は、大胆不敵な犯行を重ねる強盗団を追うことだった。監視者としての捜査の鉄則を学びつつ、成長を遂げていく彼女だったが、事件は易々とは解決しなかった。
 香港映画「天使の眼、野獣の街」のリメイクなので、独創性の評価は割り引かざるをえないが、高層ビルの屋上に佇み作戦を俯瞰する強盗団のチョン・ウソンと、町中に設置された監視カメラの映像で犯人を追う特殊犯罪課のチームワークのせめぎあいは、チェスゲームの頭脳戦を見るようにスリリングだ。ヒロインの初々しい魅力に加え、特殊犯罪課を率いる女性課長のしたたかな存在感もいい。共同監督のチョ・ウィソクは主に演出を、キム・ビョンソはビジュアルと街頭シーンを分担したようだ。※9月6日公開予定。(★★★)

 釜山を舞台に、四人の幼なじみの友情とその後を描き、のちに連続TVドラマにもなった大ヒット映画「友よ チング」の十二年ぶりの続編が『チング 永遠の絆』である。ヤクザの抗争のさ中、親友の殺害に関った罪で、十七年もの獄中生活を送ったユ・オソン。しかし、出獄すると組織は兄弟分のチョン・ホビンに乗っ取られていた。かつての仲間を訪ね、巻き返しの算段をしながら、彼は獄中で目をかけていた無鉄砲だが芯の強さがある若いキム・ウビンにも声を掛ける。しかし若者との間には思いもよらぬ因縁が隠されていた。
 前作と同様、コンパクトにまとめられているせいか、群像劇の見ごたえを期待すると肩透かしを食うが、現在と過去との因果関係が明らかになるくだりなど、良く練られている。徐々に浮かび上がる現在と過去の鮮やかな相似の関係が、二つの作品に共通する主題を象徴するかのようだ。それにしても若き日の池畑慎之介に似たキム・ウビン、その存在感にはただならぬものがある。※9月6日公開予定。(★★★)

 「コマンドー」、「ニック・オブ・タイム」、「96時間」、「プリズナーズ」と、娘を奪われた父親が火事場の馬鹿力を発揮する作品は多いが、ゲイリー・フレダー監督の『バトルフロント』もそのひとつ。麻薬捜査の汚いやり口に嫌気がさし、潜入捜査官の仕事から足を洗ったジェイソン・ステイサムは、ルイジアナの田舎町で娘との二人暮らしを始める。しかし、モンスターペアレンツの言いがかりがきっかけで、麻薬の製造と密売を手がけるジェームズ・フランコにかつての仕事を知られ、それが彼を逆恨みする麻薬王の耳に入ってしまう。
 火事場に限らない主人公の半端ない強さが、この作品の弱点だろう。窮地に立たされても、一向に緊張感が意外と盛り上がらないのは、そのあたりの計算違いではないか。脚本・製作に名を連ねるシルベスター・スタローンが自ら出演しなかったのもそのせい? と勘ぐりたくなる。ジェームズ・フランコの小悪党ぶりは、その心の内がなかなか読み取れず、いい味を出しているのだが。(★★)

 愛娘のために立ち上がる父親を描くといっても、イ・ジョンホ監督の『さまよう刃』は、レイプ殺人の被害に遭った娘の父親が、加害者の少年たちに復讐を遂げようとする重く悲痛な物語だ。東野圭吾の原作が、図らずも日韓競作で映画化されたのは、「白夜行」、「容疑者Xの献身」に次いでのことだが、日本版では寺尾聡が演じた父親役を、「シルミド」、「黒く濁った村」のチョン・ジェヨンが演じている。
 警察の捜査と父親の復讐行をバランスよく丁寧に描いた日本版に対し、今回の韓国版は父親の行動を軸にした点が大きな違いで、暴力シーンを過激に描くエグさが目立つと思いきや、犯人の少年の人間像を覗かせる細やかさもあって、まったく別のタイプの作品に仕上がっている。ストーリーも細部はかなり異なり、伊東四朗と竹野内豊の刑事コンビの役どころを、イ・ソンミンが屈折した役づくりに挑んでいるのにも目をひかれる。※9月6日公開予定。(★★★)

※★は四つが満点(BOMBが最低点)です。
※特記なき限り、既に公開済み。